DX戦略はなぜ必要か|DXを成功に導く戦略を策定するための11のヒント
DX(デジタルトランスフォーメーション)とはデジタル技術を使って、企業を変革し、競争力を高めることを意味します。企業がDXに取り組むには、DX戦略が必要になります。DXへの取り組みが、ただのIT化による業務の効率化で終わらないように、しっかりと目的とプロセスを定めて戦略を考えていきましょう。
DX戦略を立てるにはどんなものが必要なのか、DXを成功させるためにはどうすればいいのか。企業がいま取り組むべきDXの戦略について解説します。
なぜ日本企業にはDX戦略が必要か
DX戦略とは、DXを実現するために立てる戦略のことです。DXとは、デジタル技術を取り入れることでビジネスモデルや業務、組織に変革をもたらすことを言います。混同されやすいのですが、IT化による業務改善はあくまでもDXを実現するための手段のひとつに過ぎません。デジタル技術を使って変革を起こすことが、DXの目的です。
業務の一部をIT化して、作業効率を向上させるだけならエンジニアがいれば十分です。社外に委託することもできます。しかしDXは企業に変革をもたらすものですから、しっかりと戦略を立てて取り組む必要があるのです。そして早急に取り組む必要があり、悠長に構えていられないという事情もあります。
経済産業省が2018年に発表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」では、DXに取り組まなかった場合、2025年以降に最大12兆円の経済損失が毎年生じる可能性があるとされています。早期にDXを実現するには戦略が必要なのです。
DX戦略の立て方を考える前に
いきなりDX戦略を立てようとしても、簡単にはいかないことが多いでしょう。その前に、DXそのものについて考えておくべきことがあるからです。
ここでは、戦略について検討する前にぜひ知っておいてほしい、DXの全体像について説明します。
DXを推進する目的を明確にすることが重要
DXを推進するにあたって、目的を明確にする必要があります。どうしてDXを行うのかを明確にできないと、いくつかの業務をIT化して効率を改善しただけで満足してしまうおそれがあります。そしてそれでDXに取り組めたと誤解したまま必要な改善に取り組まず、徐々に競争力を失っていくかもしれません。
DXの最終的な目標は、デジタル技術を使った新しいビジネスモデル創出とそれによる競争力の向上です。IT化は手段のひとつに過ぎません。
また目的を明確にすることで、従業員と共有しやすくなるという一面もあります。DXへの取り組みで手間が増えたり、業務内容に変化が生じたりするため、協力的でない従業員もいるでしょう。DXの目的が明確でなければ、そういった従業員の説得や、協力を得ていくことができません。
DX推進の意義を従業員が共有する必要がある
従業員によってはDXの取り組みが始まると、これまでと業務の内容が変わる、苦手なパソコンを使わなくてはいけない、部署が縮小されるなどによって、不満を感じることも少なくありません。そのため、どんなにDX推進の旗を振ったとしても、従業員が従ってくれないおそれがあります。そして従業員の協力がなければ、DXを成し遂げることはできません。
従業員の協力を得られるように、なぜDXに取り組むのか目的を明確にして、共有しましょう。そのとき重要なのは、短期的には従業員にとって不利益が生じても、長期的に見ると従業員にとってもプラスになることがわかるようにすることです。またことあるごとにDXの重要性について説き、必要性を再認識する機会を用意しましょう。そうすることで従業員の協力を得て、DXが進めやすくなります。
DXの重要性を共有する場合、有識者がDXを理解している必要があります。弊社では『DXリテラシー講座』を提供しており、基礎からDXの知識を身につけることができます。
DXは必ず実現させなくてはならない課題
業務が問題なく進んでいる場合、DXはあまり積極的に取り組みたい課題ではないかもしれません。デジタル技術を導入するコストがかかりますし、業務内容に変更が生じて不満を抱く従業員が出るでしょう。また、効果計測などの手間もかかります。実感できるレベルの成果も保証されていません。それでも、DXはいま積極的に取り組む必要がある課題です。
競合する企業がDXに取り組み、市場の変化に合わせた施策を行った場合、変化についていけずにどんどん置いていかれてしまいます。すでに使いやすいシステムがあるのに、古いシステムを維持することで誰もメンテナンスできなくなり、事業を大きく阻害するなど結果的に無駄なコストがかかってしまう懸念もあるのです。
そしてDXの目的は、新しいビジネスモデルの創出です。DXに取り組まないのは、企業としての成長を止めることに等しいのです。DXに取り組まないこと自体にリスクがあると考えてもいいでしょう。
DX戦略の立案に必要なこと
戦略を立てる際には、目的や目標を達成するためのシナリオが重要な要素となります。DX戦略においては、長期的な視点にもとづいた、具体性のあるシナリオが求められます。そのような戦略がない状態で推進しても、DXは短期的な取り組みとなってしまうでしょう。あるいは、実行可能な施策に結びつけることができず、スタートを切れないまま終わってしまうかもしれません。
DXの目的を達成するには、実現性の高いDX戦略が必要です。そのためには、ぜひ戦略に盛り込んでおきたい要素があるので説明します。
経営理念・ビジョンを明確にする
DXに取り組む目的を明確にする重要性についてはすでに解説しました。そしてこの目的は、企業の経営理念やビジョンと結びついていることが大切です。経営理念やビジョンはすでに従業員たちに共有されており、それに沿った経営が行われています。
ところが経営理念に沿わない形でDXを始めてしまうと、判断の基準となるものが失われてしまいます。それにより、プロジェクトの進め方や判断にブレが生じてしまい、思うような結果を出すことはできないでしょう。経営理念やビジョンを改めて明確にし、それを軸としたDX戦略を進めてください。
関連記事:【DX推進マニュアル】経営者の役割や行うべきこととは?
自社のビジネスを再確認する
DXではデジタル技術の導入によって、業務や組織の効率化などが起こります。自社のビジネスを改めて分析・確認し、DXによってどういったことが可能になるのか、自社の強みと弱みを分析して戦略を立てる「SWOT分析」、ビジネス構造を理解できる「ビジネスモデルキャンパス」などのフレームワークを使って、どういったことが期待できるのかを把握しておきましょう。
もちろん、DXを導入していく過程で、まったく違うビジネスモデルが生まれることもあります。あらかじめ想定していたこと以外にも可能性があれば、積極的に取り組んだほうがいいでしょう。またデジタル技術の導入で、大きく効率を改善できそうなところがないか、目星をつけておくことも重要です。DXを始めるときは、できるだけ早く成果を出すことも重要です。
DX推進による目的を考える
DXを推進する目的を考えましょう。いまDXがビジネスで流行しているからこそ、流行に乗り遅れまいと始めるのではなく、確固たる意志を持ってDXに取り組んでいることを、目的を明確にすることで示すことができます。
また戦略は目的を達成するために立案するものですから、目的もなしにDXを推進することは意味がありません。いくつかの業務プロセスがIT化されるだけで終わってしまうおそれがあります。目的がはっきりすれば、それに向かって進むべきプロセスを明確にすることができます。
DX推進のスケールを決める
DXに取り組むにあたって、どれくらいの規模で始めるのかを決定しましょう。DXに取り組む規模によって、立てる戦略が異なります。まずは部署単位など小規模で始めて、一定の成果を出してからほかの部署へ横展開していくのもいいでしょう。問題が起こったとしても小規模な単位なので、ほかの部署への影響があまり出ないのがポイントです。ただし全社的なレベルでDXに取り組むまでに時間がかかります。
少し規模を大きくして事業部単位で始めると、それだけ時間を節約することができます。会社の規模によっては全社的に行ってもいいでしょう。
目的達成のプロセスを作成する
DXを進めていくのにあたって、どのようにステップを踏んでいくのか、そのプロセスを作成しましょう。プロセスの実行にはウォーターフォールとアジャイルの2種類の手法がありますが、DXではアジャイルがおすすめです。
ウォーターフォールは一度決めた仕様やスケジュールを厳守して、開発を進めていく方法です。当初の仕様通りのものを確かに開発するには向いていますが、途中で問題が起こったときの柔軟な対応が苦手です。それに対してアジャイルは、機能など小さな単位でリリースを行う開発手法です。問題や新しい要望に柔軟に対応して、小さな単位でリリースを繰り返し、少しずつプロセスを進め、全体を成長させていくことができます。
プロセスに必要なものをピックアップする
DXのプロセスを達成するにはどんな技術やもの、人材などが必要になるのかピックアップしてみましょう。費用などのことは考えずに、とにかく必要だと思ったものをピックアップしてください。
さらにピックアップしたものの中から、自社内だけでまかなえるものと社外から調達する必要があるものを分けてください。それによりいま自社だけでできること、社外からの協力などがなければできないことがはっきりします。
DXに取り組むにあたって、最初にあまり費用がかけられない場合は、自社内だけでまかなえるものを考えて始めてみましょう。
関連記事:DX人材に積極投資!DXに取り組むSIerの最新事例
DXを成功に導く戦略を策定するための11のヒント
ここまでDX戦略について説明してきましたが、まだイメージしづらいと感じる部分もあるかもしれません。しかし、それはDXに「こうすれば必ず戦略を立てられる」というような答えが存在しないからだともいえます。これは、DXが企業ごとの理念やビジョンに結びつく、組織やビジネスの変革であるためです。実際のDX戦略は企業ごとに独自のものであり、他社のどの戦略とも異なっているはずなのです。
とはいえ、DX戦略の策定においては、ある程度共通する部分もあります。ここからは、戦略策定のヒントにできる考え方や施策について紹介していきます。
変革のロードマップを描く
DXは、組織やビジネスを変革し市場での競争力を強化していくための、継続的な取り組みです。長期的な視点にもとづいた計画がなければ、ブレのない推進は難しいといえるでしょう。
そこで重要となるのが、自社のロードマップにDXを組み込むことです。DXを通して目指すべきゴールに対する中間目標を置き、マイルストーンとして設定していくのです。また、KPIなどの指標を定め、マイルストーンごとの達成状況を客観的に判定できるようにします。
これにより、成果を確認しながら着実にDXを推進していくことが容易になります。DXを継続的な取り組みとするために、重要な考え方だといえるでしょう。
関連記事:【DXとロードマップ】企業変革を加速させるデジタル戦略の必要性と作り方
政府発行の資料を有効活用する
DXは企業にとって重要なだけでなく、国が促進する取り組みでもあります。そのため、政府が発行する各種資料のなかにも、DX戦略を考える際に有用なものがみられます。
例えば、経済産業省による「DX推進ガイドライン」は、これまで多くのDX推進企業に活用されてきました。現在では「デジタルガバナンス・コード」と名前を変え、さらに整理された内容になっています。
こうした資料には、日本固有の商習慣や現状をふまえ、有識者が議論を重ねて作られているという特徴があります。国内の企業にとっては、DX推進における課題解決のヒントとなる場面も少なくないでしょう。
関連記事:DX推進ガイドラインとデジタルガバナンス・コードの要点を解説!
他社の事例を参考にする
DX戦略は企業ごとに独自のものであるため、他社の事例を取り入れるのは単純なことではありません。見聞きした成功事例にあやかろうとしても、上辺だけの「ものまね」で同様にうまくいく可能性は低いのです。
とはいえ、他社の事例を参考に自社のDX戦略を立てることは、もちろん可能です。いまやDXは世界的な流れとなっていることもあり、国内外からさまざまな事例を収集できます。成功例を取り入れるばかりではなく、失敗例に着目してリスクの回避・低減に役立てる考え方も有用でしょう。
また、DXの成功事例には、AIを取り入れたケースが多い点も注目に値するポイントです。AIはさまざまな分野に応用が効くデジタル技術のため、DX実現の手段として広く活用されているのです。
関連記事:DXにはAIが重要?企業のDXを加速させるAI導入のステップとは
ITの最新動向を調査する
デジタル技術は、DXに欠かすことのできない要素です。どのような技術でも、自社の戦略に合うものであればDX実現の手段となりえます。そのため、最新のデジタル技術の知識を積極的に取り入れていけば、DXの可能性をさらに広げられるでしょう。
なかでも5GやIoTといった、大量のデータを扱うことに関係する技術はDXに有益な場面が多いといえます。デジタル技術と同様に、データもDXを支える重要な要素であるためです。
例えば、IoT機器から収集したデータをAIと組み合わせる手法などが考えられます。こうした最新の技術にもとづく発想により、従来は難しかったまったく新しいサービスの開発も可能になるかもしれません。
関連記事:DXとAIの関係性とは?DX推進にAIを活用する際の3つのポイント
「守り」のDXで無駄を省くことから始める
DXには「攻め」と「守り」の取り組みがあると知っておくことも、戦略策定に有益です。
– 攻め:ステークホルダーを巻き込み、新たな付加価値を生み出して市場での競争力を強化していくこと
– 守り:組織や業務プロセス、企業文化など、自社内でコントロールできる範囲内での変革を進めること
「守り」のDXから着手すれば、比較的成果を出しやすいことがわかるのではないでしょうか。例えば、デジタル技術で業務上の無駄を省き、コストダウンをはかる施策などが「守り」に分類されます。
ただし、DXの最終的な目的は「攻め」のDXにこそあります。「守り」からスタートしたとしても、いずれは「攻め」に転じることを想定したDX戦略が重要だといえるでしょう。
関連記事:「攻めのDX」推進のポイントとは?「守りのDX」との違いから解説
スモールスタートで早期に成果を出す
DXはすべての人が賛成しているとは限りません。DXより直近の売上を伸ばすことが重要と考える人、成果の見えない事業へのコストを嫌う人、業務内容の変化を嫌う人など、DXに反発する人は決して少なくありません。
しかし社内の理解を求めることに時間をかけるよりは、できるだけ早くDXに取りかかるべきです。そのためDXに取り組むときは、できるだけ費用をかけずに小規模で始めることが大切です。あまり費用がかからなければ、反発も少ないでしょう。アジャイル開発もスモールスタートで成果を積み上げていけるアプローチです。
そして、小規模ながらも早く成果を出すことで、DXに対して理解を得られるようにしていきましょう。
すぐに導入できるものを見つける
DXを始めるときは、アーリースモールサクセス型DXがおすすめです。これは、小さな規模で始める、成功しやすいところから始めることを指す言葉です。小さな規模で始めて手っ取り早く成果を出すことで、DXを受け入れる土壌をつくってしまうのです。小さいながらも成功をいくつも積み重ねていくことで、業務全体のデジタル化を進められるようになっていきます。
そのため、現在の業務の中から、ツールなどを導入してすぐに業務改善ができるものをあらかじめ見つけておくことが大切です。そうすれば少しでも早くDXに取り組めるようになります。
DX人材の確保を常に行う
DXが注目されている現在、供給よりも需要が大きいため、DXに関連するスキルを持った人材を雇用するのは大変です。そして人材不足はDXの進捗に著しく影響を与えます。近いうちに必要になる人材をあらかじめ募集しておくのもひとつの方法です。
そしてDX人材にとって魅力的な業務内容、待遇を用意することも重要です。せっかく雇用できてもミスマッチから離職されては意味がありません。
同時に社内での人材育成も重要です。DXでマネジメントを担当する人は、自社の業務に精通している必要があります。自社のさまざまな事業への理解を深めて、将来的にDXのマネジメントを担える人材育成にも努めましょう。
戦略に合った組織づくりを行う
DXを進めていくにあたって、戦略にあった組織づくりが必要になります。現在あるITやシステムなどを行っている部署がDXを担うのがひとつの方法です。デジタル技術に精通しているため、ツールの導入・運用・管理などが比較的スムーズに行えます。ただ現場への理解不足などが懸念されます。
事業を行っている部署が主体となって、DXを進める方法もあります。事業部に必要なものがわかっているのが強みですが、どうしてもデジタル技術の知識が不足します。DX専門の部署を立ち上げるのもいいでしょう。必要な人材をそろえてDXを進めていけるのは大きな強みです。ただ最初にコストがかかるという問題があります。それぞれのメリット、デメリットを把握して、自社に合った組織づくりを行いましょう。
関連記事:DX推進のメリットとデメリットを解説!課題を乗り越え効果的に取り組むには
顧客のニーズを見つける
DXで重要なのは新しいビジネスモデルの創出です。そのヒントになるものは顧客のニーズに隠されています。DXを成功させている企業の事例を見ると、顧客体験の向上によってサービスやビジネスを絶えず変化させています。顧客のニーズをさまざまなデータをもとに分析し、どのようにして応えるべきか検討していきましょう。
すでに顧客のニーズがわかっているものの、どうやっても解決できなかった問題もあるでしょう。しかしそれは新しいビジネスモデルを生む可能性を秘めています。DXの取り組みを始めた機会に、改めて検討してもいいでしょう。
企業風土・文化の変化を受け入れる
DXを推進していくと、企業風土や文化といったものに変化が生じることがあります。もともとDXはデジタル技術によって企業に変革をもたらすものなので、風土や文化以外にもさまざまな変化が生じます。場合によっては、DXを実行する前と後では、別の会社のようになっていることも考えられます。
しかし企業風土や文化が変化するということは、それがビジネスにおいて足かせとなっていた可能性があります。企業風土や文化は将来に残すべきものとは限りません。いまのままでは企業が生き残れないと考え、変化を受け入れてDXに取り組んでいきましょう。
まとめ
DXとはデジタル技術を導入して、企業のIT化を進めることではありません。IT化は手段のひとつであって、DXの本来の目的は企業に変革をもたらし、競争力を高めることです。
そのため企業が着実にDXを進められるように、しっかりと戦略を立てる必要があるのです。DXに取り組むときは、しっかりと戦略を立てて、着実に成果を出せるようにしていきましょう。
そしてDX戦略を立案する場合、正しいDXの知識が必要となります。さまざまなWebサイトを読んだり書籍を読んだりしても、それで十分な知識がついているとは限りません。基礎からDXを学び、DXのリテラシーを高めていく必要があります。
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