今注目のDX推進、7つのメリットと3つのデメリットを解説
2021年6月に更新されたIPAの「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2020年版)」によると、国内におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みは大企業を中心に着実に進んでいます。今後も市場のデジタル化が進んでいくと予想されるなか、DXに着手することは多くの企業にとっての急務です。
そこで本記事では、DXに共通するメリットとデメリット、よくある課題の乗り越え方について解説します。DX推進に効果的に取り組むためのヒントとして、ぜひご一読ください。
DXの基礎
まずは、「DXとは何か?」について簡単に確認しておきましょう。なぜ多くの企業がDXを重視しているのかについて理解するとともに、その現状がどうなっているのかを知ることも大切です。
– DXの定義と目的
– 企業にDX推進が必要とされる理由
– 日本企業におけるDXの現状
DXの定義と目的
学術的な意味での「DX」は、スウェーデンにあるウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が、2004年に発表した論文に由来するといわれています。
一方、ビジネスにおけるDXの定義は複数あり、国内では経済産業省によるものが代表的です。ごく簡単に要約すれば、「DXの目的は企業が競争力を発揮することにある」とされています。
DXを推進するとは、この目的に向かって、顧客ニーズにもとづき変革に取り組むことです。具体的な施策として、ITの導入やデータ活用を思い浮かべる人も多いでしょう。これらはもちろん重要な施策ではありますが、それ自体はDX本来の目的ではなく、あくまでDXを実現するための手段なのだという点を忘れるべきではありません。
「DX」という用語が意味するものについては、こちらの記事もあわせて参考にしてください。
企業にDX推進が必要とされる理由
なぜ多くの企業がDXを必要としているのでしょうか。
現在ではインターネットやスマートフォンが広く普及し、消費者行動のデジタル化が進みました。また、AIやIoT、ブロックチェーンといった新しいテクノロジーが実用性を増し、ビジネスにも組み込みやすくなってきています。デジタルに強い企業にとって、DXを推進してサービスの変革をはかるのは自然な流れだといえるでしょう。
一方、新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、テレワークなどの新しい業務環境を整える動きが多くの企業にみられるようになりました。結果としては、「働き方改革」にうたわれる「多様で柔軟な働き方」が実現した形です。これを契機としてDXへと舵を切った企業も、少なからずあったと考えられます。
こうした流れのなか、いまだDXへの取り組みをスタートできない企業には一定にリスクがあるといわれています。すでにDXを推進している企業との競争において、勝ち残れる可能性が低くなってしまうためです。
DXに取り組まない企業が抱えるリスクについては、こちらの記事も参照してください。
日本企業におけるDXの現状
国内における2020年度のDX市場規模(投資金額)は、約1.4兆円にもおよびます。2030年度には、5兆円を超える見通しです。それでも世界と比較すれば、まだまだ日本のDXには遅れがみられるのが現状です。
こうした遅れの背景には、DXに関する理解不足やDX推進に必要な人材の不足、老朽化により有効活用が難しくなってしまったITシステムの存在などがあります。これらの課題と、その克服方法については、詳しく説明している記事があるのであわせて参考にしてください。
さまざまな分野で市場のグローバル化が進みつつあることを考えれば、国内におけるDXの遅れは深刻な問題です。いかにして現状を打破し、海外企業にも負けない競争力をつけていくかが、日本企業の多くにとって重要な課題だといえるでしょう。
そのためにも、DXへの取り組みが企業にどのようなメリットをもたらすのかについて知ることが大切なのです。
DX推進のメリット
DXは、意義を理解しながら適切に推進すれば、企業・組織にさまざまなメリットをもたらす可能性があります。ここでは、DXを推進することで得られる代表的なメリットとして、以下の7つについて説明します。
– メリット1:業務効率化と生産性向上が期待できる
– メリット2:蓄積されたデータを有効活用しやすくなる
– メリット3:市場の変化に柔軟に対応できるようになる
– メリット4:価値の高いビジネスモデルの創出につながる
– メリット5:働き方改革の実現と両立できる
– メリット6:BCPの拡充により事業停止のリスクを回避できる
– メリット7:旧式の社内システムからの脱却につながる
メリット1:業務効率化と生産性向上が期待できる
DXでは、デジタル技術を積極的に活用します。これまでは紙に書いたり手作業で行ったりしていた業務の多くが、デジタル化により効率的にこなせるようになります。例えば、クラウドシステムを利用してデータを一元管理したり、RPAを導入してパソコン業務の一部を自動化したりといったことです。
また、DXでは既存業務を単にデジタルで置き換えるだけでなく、ビジネスプロセス全体を見直すこともできます。組織全体のムリ・ムダ・ムラを発見して取り除き、より合理的な業務内容へと改善するのです。これにより、DXの効果は部門ごとの局所的な効率化のみにとどまらず、全社的な生産性の向上につながっていくと期待できるでしょう。
メリット2:蓄積されたデータを有効活用しやすくなる
企業の多くは、これまでに収集したデータをビジネスに活用できないまま蓄積しています。
顧客リストやWebサイトのアクセス解析結果のように、局所的には活用できているデータもあるでしょう。しかし、このようなデータは部門ごとにバラバラに管理されているケースが少なくありません。本来ならビジネスに有効活用できるデータが、担当部署のサーバー内に人知れず眠っているのです。
DXにより組織内に蓄積されたデータを一元管理するシステムを構築すれば、これまで埋もれていたデータの有効活用が可能になります。また、AIなどの高度な分析手法を用いることにより、新たな知見を得られる可能性も高まります。
メリット3:市場の変化に柔軟に対応できるようになる
近年では、ライフスタイルのデジタル化が急速に進んでいます。最新のデジタル技術を導入した新興企業が既存市場を大きく揺るがすようなケースも少なくありません。顧客ニーズの変化を肌で感じている企業も多いのではないでしょうか。
DXでデジタル技術を戦略的に導入することは、ビジネスにおける柔軟性の向上にもつながります。ニーズの変化に素早く対応しながら、市場での競争力を強化、あるいは維持していくことが可能になるのです。
メリット4:価値の高いビジネスモデルの創出につながる
デジタル技術とデータの活用は、企業の製品やサービスそのものの質を変える可能性があります。導入した技術から生まれたアイデアをビジネスモデルに組み込むことで、顧客満足度の向上を狙えるためです。また、顧客データなどをもとに改善を重ねていけば、提供価値を継続的に高めていくことも可能です。
ときには、既存事業の延長線上にないような、まったく新しい顧客体験を提供できるようになることもあるでしょう。デジタルの力で実現可能になったアイデアが、これまでとは異なる方法で顧客に喜んでもらえる付加価値を創出するのです。
メリット5:働き方改革の実現と両立できる
DX推進の過程でビジネスプロセスを見直すことは、現場での働き方も変える可能性があります。
例えば、業務のムダを省きプロセスを合理化していく取り組みは、長時間労働の削減につながります。コミュニケーションツールや各種管理システム、テレワークが行える環境整備などを進めていけば、より柔軟な働き方を実現することも可能でしょう。
このような働き方の改善により、従業員のモチベーション向上が期待できます。また、空いた人員を新規事業やコア事業に集約させて、さらなる生産性向上を狙うことも可能です。
メリット6:BCPの拡充により事業停止のリスクを回避できる
働き方の変化は、BCP(事業継続計画)の拡充にもつながります。災害時などにおいても、コア業務が停止するリスクを回避しやすくなるのです。
テレワークに対応したIT環境の整備は、BCPにおけるもっともわかりやすい例でしょう。ほかにも、クラウドやIoT、5Gなどの技術によって遠隔地からさまざまな業務を遂行できる環境を整えたり、AIチャットを採用してユーザーサポートの一次窓口を無人化したりといった方法が考えられます。
メリット7:旧式の社内システムからの脱却につながる
経済産業省の「DXレポート」によると、日本企業は現行システムの維持管理のために、IT予算の約8割ものコストをあてています。一方、デジタル活用の基盤となるシステムをDXの一環として再構築すれば、従来のシステムからの脱却が可能です。
また、すでにDXを推進している企業の多くが、システムを刷新することでIT予算に占めるシステム運用コストの割合を大幅に削減できたとしています。DXによる基盤システムの刷新は、将来的な維持管理コストの削減につながる取り組みだといえるでしょう。
関連:AI導入のメリットとデメリットは?わかりやすい具体例で解説
DX推進のデメリット
DXで期待したような成果をあげるためには、解決すべき課題も存在します。ここでは、推進のしかたによってはDXのデメリットになってしまうかもしれない、以下の課題について説明していきます。
– デメリット1:デジタル技術に明るい人材が求められる
– デメリット2:レガシーシステムからの脱却が難しい
– デメリット3:継続的に取り組む必要がある
デメリット1:デジタル技術に明るい人材が求められる
DX推進においては、しばしば人材不足が課題になります。
組織全体として一貫したDXを押し進めるには、いかにして現場からの協力を得るかが重要なポイントです。そのためには、DXそのものの意義を理解しているリーダを各部門に配置しなければなりません。また、DXの基盤となるシステムを構築するためにも、最新のデジタル技術に関する十分な知識を備えたエンジニアを確保する必要があります。
しかし、DXのためにこれだけ多くの人材を確保するのは、企業によっては容易なことではありません。一時的には外部ベンダーの力を借りて乗り切ることができたとしても、長期的に考えれば、今後どのように人材を確保していくかが課題となるでしょう。
関連:DX人材に必要なスキルと社内育成の重要性について徹底解説!
デメリット2:レガシーシステムからの脱却が難しい
デジタル活用のために社内システムを刷新する必要性を認識していたとしても、なかなか実行に移せないというケースは少なくありません。とくに、複雑化・ブラックボックス化によりレガシー化してしまったシステムは、改修が困難な状況にあることも多いでしょう。
また、現行業務で利用している限り、システムの改修にはリスクも伴います。システムを入れ替える際には、業務やサービスを一時的にストップせざるをえないかもしれません。また、慣れ親しんだ業務プロセスの変更に、現場の従業員が難色を示すことも考えられます。
しかし、DXに臨むためにはレガシーシステムが「足かせ」となるような状況から抜け出さなければなりません。場合によっては、現行システムの一部を破棄する決断を迫られることもあるでしょう。
デメリット3:継続的に取り組む必要がある
DXで期待したような成果を出せるようになるまでには、それなりの時間とコストがかかります。予算や人員を長期的に確保する必要があることから、一度は着手したものの、痺れを切らしてやめてしまう企業も少なくありません。
推進部門を新設して「丸投げ」してしまうというのは、DXでなかなか成果を得られない要因のひとつです。DXへの取り組みと経営戦略との間に乖離が生じてしまうと、どうしても最終的な成果に結びつかなくなってしまうためです。
DXを一過性のブームで終わらせないためには、経営層と実行部隊が一貫性を保ちながら、継続的に取り組んでいけるような体制を整えることが課題だといえるでしょう。
経済産業省による「DX認定制度」とは
「DX認定制度」とは、DX推進の準備ができている「DX-Ready」な事業者を国が認定する制度のことです。国内におけるDXへの取り組みを促進することが、この制度の目的となっています。
DXの実現を目指す企業は、同制度の認定を受けることでさまざまなメリットを得られるでしょう。ここでは、以下の3つについて紹介します。
– 社会的な企業価値の向上に寄与する
– DXへの投資に優遇制度がある
– DX銘柄に選定される可能性がある
社会的な企業価値の向上に寄与する
DX認定制度により認定された企業は、IPAのWebサイトに掲載されます。また、同制度の認定事業者であることを示すロゴマークを、広報活動などに使用できるようになります。
これにより、DXに前向きな姿勢を社会に示すことが可能です。自社がDX認定を受けていることを取り引き先に周知できる点に、メリットを感じる企業も少なくないでしょう。
DXへの投資に優遇制度がある
全社規模のDXを推進するDX認定事業者には、「DX投資促進税制」による優遇があります。優遇を受けるにはデータ連携を行い、クラウド技術を活用するなどの基準を満たした「事業適応計画」の申請が必要となりますが、デジタル関連投資に対して税額控除または特別償却を適用できるようになります。
DX実現に向けて計画的な投資を考えている企業には、一定のメリットがあるでしょう。
DX銘柄に選定される可能性がある
「DX銘柄」とは、東京証券取引所に上場している企業のなかから、経済産業省により選定されたDX推進企業のことです。ビジネスモデルの変革や競争力の強化を目的としたデジタル活用に積極的な企業が、業種ごとに最大1〜2社ずつ選ばれます。
DX銘柄に選ばれるには、DX認定事業者であることがひとつの要件となっています。DX認定を受けた企業は、その取り組み内容などによってはDX銘柄として広く紹介され、投資家からも高い評価を得られる可能性があるということです。
よくある課題を乗り越えDXで成果をあげるには
DXのデメリットを克服するには、DX推進によくある課題とどのように向き合っていくかが重要です。ここからは、DXへの効果的な取り組み方について説明します。ぜひ、DXで成果をあげるための参考にしてください。
明確なビジョンを共有する
DX推進でまず重要なのは、経営層のコミットメントです。
DXはビジネス全体にわたって変化をもたらす活動であるため、組織が一丸となって取り組む必要があります。そのためには経営層が率先してビジョンを描くとともに、達成に向けて強い意志を示すことが大切です。
このとき、DXへの取り組みがどのように経営戦略と関わっているのかについても、明確に伝える必要があるでしょう。これにより、DXに関する個々の施策が経営戦略から逸脱してしまうような事態を防ぐことができます。
小さな変化をおこすことからはじめる
DX推進では、小さな変化をおこすことからはじめる「アジャイル」的な進め方が効果的です。
DXのビジョンを一気に実現するのは簡単ではないかもしれません。しかし、難しく考えすぎてなかなか着手できないのも問題です。実際のところ、DXは小さなことから手をつけて、徐々にビジョンに近づけていくほうが成功確率は高くなります。
これは、レガシーシステムの問題についてもいえることです。旧式のシステムを一気に破棄するのではなく、少しずつ置き換えていく方法についても検討してみるとよいでしょう。
DXのための知識やスキルを共通化する
DXのための知識やスキルを共通化(リテラシー化)することも、成果をあげるために効果的な施策です。
DX推進では、活動に携わる人材が社内に豊富にいて、互いに議論できるような環境が整っていることが理想的です。AIによる機械学習や画像認識、クラウドコンピューティングといったデジタル技術に関する基本的な知識・スキルが全社共通のものとなっていれば、そのような環境を実現できます。
そのためには、社内教育に積極的に取り組むことがポイントになります。一度環境を整えることができれば、今後DXを継続していくための土台になるでしょう。
関連:今さら聞けないDX推進ガイドラインの要点をわかりやすく解説!
DX実現の土台づくりはリテラシーの底上げから
DX推進は、企業にさまざまなメリットをもたらします。しかし、乗り越えるべきデメリットが存在するのも確かです。DXを着実に進めるには、結果を急ぎすぎず、小さな変化からはじめるのが効果的です。多くの企業にとっては、DXリテラシーの底上げが最初のステップになるでしょう。
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