DX戦略の立て方とは?失敗例と推進事例から探る成功のパターン
取り組みを始めたDX施策が頓挫してしまう主な原因は、はじめにDXの具体的な戦略を立てなかったことにあります。また具体的な戦略を立てられない背景には「経営層のコミットメントが弱い」「全社的なDXリテラシーが低い」といった課題があり、準備段階で解消すべき事柄が多いことが分かっています。今回はDX戦略の立て方を知るために、よくある失敗例を踏まえ、推進事例の成功パターンを探っていきます。自社DXにおける戦略の重要性についてご理解いただけますと幸いです。
なぜDXには「戦略」が必要なのか?
DXと聞いて「業務のデジタル化」をイメージする人も少なくないでしょう。たしかにDXにおいて業務のデジタル化は重要なものです。しかし業務のデジタル化は自社DXにおけるステップの1つであり、DXの大目標へ到達するために達成されるべき事柄の1つとして捉えることがポイントとなります。「DXは単にデジタル化を意味しているのではない」という認識からスタートすることが大切です。このような認識に立つと、DXは業務のデジタル化を踏み台にした「さらに上位の目標」と考えることができます。つまりDXは「デジタル技術を用いた顧客価値の創出」や「新しいビジネスモデルの創出」を意図しており、その大目標から逆算したステップが戦略的に計画される必要があります。
仮にDXを業務のデジタル化と捉えてしまった場合、企業のDX施策は全体最適ではなく、部分最適に陥ってしまうケースが多くなります。例えば、あるデジタル技術の導入において、各部署・部門にとって必要なツール・システムが選択されてしまう、といった具合です。当然ながら各部署・部門には「固有の課題」があり、少ない予算の中で最適な選択を迫られた結果、本来の導入目的に合致しないツール・システムを導入するケースもあるでしょう。これまではそうした応急措置で乗り切れたかもしれませんが、DXの文脈においては部分最適の考え方が自社DXの達成を遅らせる要因となります。なぜならDXで達成しようと試みる目標は、決して一部署・一部門だけで達成できるものではなく、全社的な協力・連携があって成し遂げられるものだからです。ある1つの事業が1つの部署・部門だけで完結しないことからも分かる通り、ある事業の変革に対して、社内のあらゆる部署が「1つの施策」を実行しなければなりません。
DXの様々な施策をはじめから「全体最適を図る施策」として計画することで、それぞれの部署・部門で行われる施策が散発的なものに終始したり、一貫性を欠いたものとして認識されるリスクを低減することができます。DX施策への継続的な投資が断たれる前に、戦略的な自社DXの構想を描くことが大切なのです。
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自社DXでよくある失敗例
失敗しないDX戦略の立て方を知る前に、どのようにして自社DXが失敗するのかを知っておくことが重要です。多くは先述したような部分最適の施策を推進することで発生するため、全体最適の視点に立って各部署・部門の施策が計画されることがポイントとなります。
【自社DXでよくある失敗例】
- 事例1:部署・部門ごとにデジタル化を推進した
- 事例2:レガシーシステムの刷新を行って満足した
- 事例3:自社DXのアイデアが湧かない
事例1:部署・部門ごとにデジタル化を推進した
DXはAIやRPAといったデジタル技術の活用によって実現されるケースが多く、施策初期から業務時間の短縮や、業務の省力化といった成果が得られます。目に見えて分かる成果なだけに、施策前から社員の関心が集まりやすいですが、DXを業務のデジタル化として都合良く捉える社員も出てくるため注意しましょう。DXの初期段階として業務のデジタル化を推進する場合は、自社DXが「全体最適を意図した継続的な施策であること」と、「施策初期の効果に満足しないこと」を全社的に伝える必要があります。
また部署・部門ごとでデジタル化を推進すると、全社的なITシステム基盤を構築するために必要な部門間連携が遅れる可能性があります。全社的なITシステム基盤は自社DXを下支えするため、各システムの連携にかかるコストを最小限に抑える工夫が求められます。
事例2:レガシーシステムの刷新を行って満足した
また自社DXの取り組みを「レガシーシステムの刷新」と捉えて推進した企業も失敗例として挙げられることがあります。レガシーシステムの刷新は経済産業省が公表している「DXレポート」群で度々言及される内容であり、日本のDXはレガシーシステム刷新の問題にぶつかることが指摘されています。とはいえ企業のレガシーシステムの刷新はDXとイコールではなく、自社DXの推進過程におけるステップでしかありません。したがって自社DXをレガシーシステムの刷新と解釈した企業において、「既に自社DXが完了した」という認識が広まっている可能性が指摘されています。先述したように、自社DXの最終的な到達地点は「顧客価値の創出」や「新しいビジネスモデルの創出」となるため、取り組みを社内で完結させるのではなく、社内の変化が顧客や市場への良い影響として広がっていくことがポイントです。
事例3:自社DXのアイデアが湧かない
「自社DXを想定した施策に着手してはいるが、実態は業務のデジタル化に留まり、そこから先の施策をイメージできない」という企業も少なくないでしょう。DXとは何かを理解していても、前例のない自社DXを構想するのは簡単なことではありません。まずは他社事例や業界事例を参考に自社DXを考えていきますが、どうしても思いつかない場合はDX支援を行う外部パートナーの力を借りることをおすすめします。DX支援を行う企業の多くは、自社DXを構想するために必要な「DX戦略コンサルティング」を提供しています。弊社でも戦略策定・実行支援を行っておりますので、ご参考としてご覧ください。
関連:株式会社STANDARD DX戦略コンサルティング
失敗しないDX戦略の立て方
DX戦略を成功に導くにはいくつかのポイントがあります。弊社がこれまでサポートしてきたお客様の取り組みを踏まえ、6つの要素に集約いたしました。「失敗しないDX戦略の立て方」として参考にしていただけますと幸いです。
【失敗しないDX戦略の立て方】
- 自社DXに対する経営層の強いコミットメント
- 社内全体のDXリテラシーの向上
- DX推進体制の構築
- 現状分析・推進計画の策定
- 各施策の実施・効果検証
- 自社DXの内製化サイクルをつくる
自社DXに対する経営層の強いコミットメント
自社DXは経営層の強いコミットメントによって成功へと導かれます。自社DXの推進において、企業は様々な壁に直面しますが、その都度経営層による強いコミットメントがあってこそ乗り越えられるものが多くあります。例えば「アイデアの壁」は現場社員だけで乗り越えられるものではありません。なぜなら現場社員は自身が所属する部署・部門において最適な施策を検討していても、企業全体でメリットとなるような施策は普段考えておらず、唐突に全体最適の視点が必要な自社DXのアイデアを求めても、具体的なアイデアが出てこないからです。自社DXのアイデア出しの場面においては、普段から企業全体の最適化・利益最大化を考えている経営層がリーダーシップを発揮することが需要とされます。
また「投資判断の壁」でも経営層による強いコミットメントが求められます。文字通り施策に対する投資を判断するフェーズのため、決裁権を持った経営層の間で判断できるだけのデータ・材料がなくてはなりません。投資判断の壁を突破するには、現状分析と自社DXのアイデア、投資対効果を知るための客観的な数値データなどが必要とされます。
社内全体のDXリテラシーの向上
自社DXの推進において経営層による強いコミットメントが必要ですが、それと同様に現場社員の施策へのコミットメントも必要とされます。普段様々な業務で忙しくしている現場社員にとって、経営層の決定による自社DXの推進は業務負担の増大を招く可能性があります。したがって自社DXを推進する際にはメインとなる部署・部門の業務工数を可視化し、施策の優先順位を指示するような工夫が必要とされるでしょう。また施策初期のタイミングで、全社的なDXリテラシーの向上を意図したワークショップ・講座も計画する必要があります。開催目的には「自社DXに対する全社的な目線を合わせること」と「意欲的な人材を抽出する上で最適な場となること」の2つがあり、後述する「DX推進体制」を構築する際に役立つ施策となります。
関連記事:DXリテラシーとは? | 誰に必要なのか、何を学ぶことなのか?徹底解説!
DX推進体制の構築
社内全体のDXリテラシーの向上を図った後、自社DXを力強く推進する「DX推進チーム」を編成することがポイントとなります。DXの取り組み初期は様々な課題が表面化し、いつ・どこで計画が足踏みするか予想しにくい状況が続きます。そして部署・部門特有の課題にぶつかり、全社的な計画が頓挫してしまうことも想定されます。このような事態に陥ることを想定し、各部署・部門から自社DXに意欲的な人材、最適な人材を選定してDX推進チームを作ることで、常に上層部と現場の意思疎通がとれるような体制を構築することができます。またDX推進チームの中に、「自社DXを力強く牽引できる突出した人材」が在籍していることが重要です。数々の困難に立ち向かい、度重なる失敗にも屈しない推進力を持った人材を積極的に採用しましょう。
現状分析・推進計画の策定
自社DXを構想するにあたって業界の先行事例が参考になりますが、自社の現状に即した推進計画を策定することが重要です。自社に人的リソースがない場合は、DX支援を行う外部パートナーに協力を仰ぎ、自社DXの計画を立てていきます。注意点として、自社DXの舵取りは自社で行い、できる限り戦略策定や技術実装に自社の社員を採用しましょう。
各施策の実施・効果検証
自社DXを継続的な施策として実施するために、各施策の効果検証を適切に行う必要があります。DXのファーストステップとして「業務のデジタル化」を想定している企業は、業務のデジタル化によって得られる効果をKPIとして設定し、KGIから逆算した指標として設定しましょう。これらの指標設定は自社DXの戦略策定時や、現場社員との対話を通じて決定していきます。
自社DXの内製化サイクルをつくる
最後に忘れてはならないのが、自社DXの内製化サイクルをつくることです。自社DXをできる限り社内リソースを使って推進することで、ノウハウが蓄積され、変化に柔軟に対応しやすい組織体制を構築することができます。DX人材には様々なスキル・経験が求められますが、IT人材はDX人材へと進化するポテンシャルを秘めているため、まずは自社のIT人材に適任者がいるかどうか見極める所からはじめましょう。DX人材についての詳しい説明は以下の記事で行っておりますので、ご参考としてご覧いただけますと幸いです。
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DXを戦略的に推進した事例
弊社のサービス「AI_STANDARD」をご活用されたコムシス株式会社さまのDX推進事例を紹介いたします。コムシス株式会社さまは2019年時点でIoT機器やソリューションシステム、車載システムのソフトウェア開発を主体事業として行っており、Society5.0を意識した事業拡大を見据えております。コムシス株式会社さまはこれまでも、渋滞の緩和、自動運転の普及、人材不足の解消など、様々な社会課題の解決ニーズに対して「システム」を用いたソリューションを提供し続けてきました。課題の把握から、解決に必要なシステムの開発を一気通貫できるノウハウと実績を既にお持ちであり、そこに「AI」などの先進技術を組み合わせて事業拡大(新しいビジネスモデルの創出)、未来の課題を解決(新たな顧客価値の創出)していく意向がございます。
そこで2019年度に3か年計画を策定し、「AI」「より高度なIoT」「モデルベース開発」の3技術領域に特化した技術者育成に取り組んでおられます。これらの技術領域のうち、「AI」領域の技術力底上げのため、弊社の「AI_STANDARD」をご活用いただきました。
コムシス株式会社さまは3か年計画で全技術社員の60%以上にAI関連資格を習得させる計画があり、2019年度において約120名の技術者にAI_STANDARDをご受講いただきました。習得可能なAI関連資格にはJDLAが実施している「G検定」や「E資格」などがあり、「一目でAIに関する確かな技術力を保有していると分かる」ことを目的としております。長年培ってきた経験と、先進技術を掛け合わせて社会課題の解決に立ち向かっていく具体的な戦略を示された推進事例となりました。
コムシス株式会社さまはこうして習得した先進技術を「いかにしてビジネスに繋げていくか」とともに「システムを開発する前に、人を育てることも大切にしている」と話されており、デジタルトランスフォーメーションの世の中で「それに乗り遅れない人材を育てたい」という強い想いが感じられました。先進技術の習得によってDX推進体制を構築するだけでなく、自社にノウハウを蓄積する「内製化のサイクル」も意識されておられます。
AI_STANDARDをご活用された際のインタビューの最後には、既存事業である「配達員が持つ端末システム」にAIを活用した不在検知機能を搭載し、業界課題の「お届け人不在による再配達」を減らすアイデアがあることも話してくださいました。コムシス株式会社さまの導入事例について、詳しくご覧になりたい方は以下のリンクを選択いただけますと幸いです。
関連:最新のAIテクノロジーを駆使して社会課題を解決してSociety 5.0へ
まとめ|DX戦略のファーストステップは社員全体のDXリテラシーの向上
AIなどの先進技術は、習得するだけではビジネス上の意味を持ちません。既存事業や現状の社会課題に即したアイデアがあり、その手段として初めて効果を発揮するものです。また多くの導入事例がそうであるように、自社DXの事業アイデアは、DXやAIリテラシーの向上を図ることによって具体的に浮かぶ側面があります。つまり「DXやAIとは何か」と考えているよりも、「実際に手を動かしながら技術に触れる」方がアイデアが湧くことが多いのです。AIやそのほかの先進技術にできること・できないことを知り、自社DXの事業アイデアを構想するために、弊社は入り口としての「DXリテラシー講座」をおすすめしております。全社的なAIリテラシー、DXリテラシーの向上を検討している担当者さまは、是非一度カリキュラムにお目を通していただけますと幸いです。