国がランキングするDX銘柄や成功企業の事例を知り、自社の参考にしよう
DXを目指すなら、すでにDXを実践して成果をあげた事例を参考にするのが一番の近道です。しかしこれは真似ではありません。DXに何を求めるかは企業ごとに異なります。ですからAIを使ったとか、クラウドに移行したなどの手法ではなく、課題をどうやって見つけたか、解決のために社内をどう変革したか、成果をどう評価したかを参考にすべきです。
そこで本記事では、DXへの先進的な取り組みを行ったとして、国から「DX銘柄」に選定された企業の事例を紹介します。自社のDXを推進する際の参考にしてください。
DXとは。日本での意味を経済産業省に教えてもらう
DXについては、Digital Transformationの略という言葉は定義されていますが、その意図するところは企業や業界によって微妙に異なるようです。ここではDXの意味を明確にします。
最初は2004年の論文から。デジタルの課題例として紹介される
DXは、2004年にスウェーデン ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という傾向をDigital Transformationと称したことが語源と言われています。その後、2010年ごろからのスマートフォンやクラウドといったデジタルテクノロジーの台頭を受けて、現在はデジタルを活用して経営の在り方やビジネスプロセスの再構築をする意味合いが強くなっています。
経済産業省の見解、日本としてどうすべきか
国内では2018年の経済産業省のDXレポートで「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(経済産業省、DX推進ガイドライン Ver1.0より)と定義されています。注意すべきは変革が2回登場しているところ。つまりデジタル技術の活用で「変革」することを強く求められていることです。
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自社の取り組みを一覧するDX推進指標
「DX推進指標」は企業のDX度を判定する指標です。この指標を1つひとつチェックすれば自社のDX度を6段階で判定してくれ、今後注力すべき部分が分かります。例えばレベル1は「一部での散発的実施」とされていて、DXという号令はかかっているが、一部単独で何かにトライしているだけという評価です。これでは先は暗そうです、取り組むなら全社で行うべきでしょう。また情報処理推進機構では、指標の結果を分析してくれる「DX推進指標 自己診断結果入力サイト」を用意しています。この分析を利用すれば、企業の次の一手が見えやすくなります。
国が選定する「DX銘柄」とは
「DX銘柄」とは、経済産業省によって毎年選定される、DX推進の仕組みを構築しデジタル活用の優れた実績をあげた企業のことです。「DX銘柄」に選ばれるには、「DX認定」を取得した上場企業でなければならないなど、一定の条件を満たす必要があります。また、「DX銘柄」には選ばれなかったものの、DXについて注目されるべき取り組みを実施している企業は「DX注目企業」として紹介されます。
「DX銘柄」に名を連ねるのは、いずれもビジネスモデルや経営の変革に挑戦し続けている企業です。その取り組みをただ真似るだけでDXを実現できるわけではありませんが、DXの目標を定める際の「企業モデル」として参考にできるでしょう。
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「DX銘柄」に選定された企業の取り組み事例を紹介
DX銘柄のなかでも、特に優れた取り組みを行った企業は「DXグランプリ」として選定されています。「DX銘柄2021」では選定企業28社のうち2社が、「DX銘柄2022」では33社のうち同じく2社がグランプリを獲得しました。選出された企業の一覧は、経済産業省のホームページに公表されています。
<経済産業省サイト>
「DX銘柄2021」「DX注目企業2021」を選定しました!:
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210607003/20210607003.html
「DX銘柄2022」「DX注目企業2022」を選定しました!:
https://www.meti.go.jp/press/2022/06/20220607001/20220607001.html
ここでは選定された企業のうち、以下の事例について紹介するので参考にしてください。
– 「AI創薬とリアルワールドデータ(RWD)の活用」中外製薬株式会社(医薬品)
– 「エネルギーソリューションへの挑戦」日本瓦斯株式会社(小売業)
– 「匠の心を持ったデジタルゼネコン」清水建設株式会社(建設業)
– 「デジタル基盤のプラットフォーム化」株式会社日立製作所(電気機器)
– 「不動産事業のスマート化」SREホールディングス株式会社(不動産業)
「AI創薬とリアルワールドデータ(RWD)の活用」中外製薬株式会社(医薬品)
中外製薬株式会社は、激しく変化するヘルスケア産業のビジネス環境に対応すべく、同社固有の知見にデジタル技術を組み合わせたDXを推進しています。その全社的な取り組みが評価され、DX銘柄2022のグランプリに選ばれました。
同社は、創薬プロセスにAIを活用することでプロセス全体を効率化しながら、新薬開発の成功確率を向上させる取り組みを進めています。行政や医療機関とも連携し、リアルワールドデータを活用できる環境の共創を推進するとともに、患者と疾患の深い理解にもとづく個別化医療の実現を目指しています。
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デジタル基盤を強化するために同社が行った以下のような施策は、医療・医薬品の分野に限らず多くの企業の参考になるでしょう。
– クラウドを活用し、大容量のデータを全社で安全に利用できる環境を低コスト・短期間で構築
– デジタル人財を体系的に育てる仕組みを整え、実際に100名を超える人材を育成
– デジタル技術の活用で価値を創出するアイデアを社内で募集・採用
あわせて、失敗を許容し挑戦を推奨する風土を構築している点も注目です。
「エネルギーソリューションへの挑戦」日本瓦斯株式会社(小売業)
日本瓦斯株式会社(ニチガス)は、DX銘柄2022のグランプリに選ばれたもう1つの企業です。カーボンニュートラルをはじめとする社会的課題や、災害時に求められるエネルギー供給体制などをふまえ、DXを軸に「ガスと電気の小売」から「エネルギーソリューション」へと舵を切っています。
同社はこれまで、差別化のために遠隔自動検針などによる高度な効率化を実現させてきました。今後はこれらの仕組みを他社と共同で利用できるよう、独自に培った技術をプラットフォームとして展開する計画です。また、デジタル技術を用いたビジネスモデルの進化により、さらに効率的なエネルギーの活用を目指しています。例えば、太陽光発電やEV・蓄電池などの「分散型エネルギー源」をサブスクリプションモデルで各家庭に普及させ、仮想空間やAIを活用してコミュニティ全体のエネルギー共有を最適化していくといいます。
こうした同社のビジョンは、「変革に挑戦しないことがリスクである」という考え方とともにあるものです。失敗を恐れず挑戦する風土に、無形の価値を見出している点が成長の原動力だとしています。
「匠の心を持ったデジタルゼネコン」清水建設株式会社(建設業)
清水建設株式会社は、「DX銘柄」の前身にあたる「攻めのIT経営銘柄2017」と「DX銘柄2021」に続いて、DX銘柄2022にも選定された企業です。
同社は、創業者が宮大工であったことから受け継がれる「匠」の心にデジタルをミックスさせた「デジタルゼネコン」を中期デジタル戦略としています。「ものづくりをデジタルで」「デジタルなサービスを提供」「ものづくりを支えるデジタル」の3つのコンセプトを柱とし、DXを経営ビジョンに取り入れています。
DX銘柄2022においては、以下のような新しい働き方の実現にもつながる可視化・分析サービスが評価されました。
– 働く時間と場所を選ばないネットワーク型の「場」を構築:対話を中心とするリアルタイムオペレーションの実現
– 各人がタグ(発信器)を携帯することでWeb上にデジタルツインを構築:移動履歴をマネジメントなどに活用
また同社は、建物に「インストール」することで空調や照明などの設備を制御できるシステムを開発し、建物の所有者や管理者にサブスクリプションモデルで提供しています。同社がコアとする建設事業との相乗効果も期待できる、価値の高い成長戦略だといえるでしょう。
「デジタル基盤のプラットフォーム化」株式会社日立製作所(電気機器)
DX銘柄2021の中で特に優れた企業に贈られる「DXグランプリ2021」は、株式会社日立製作所に授与されました。同社は、デジタル技術をコアに企業や自治体と共に創造する=協創という活動を行っています。埼玉県戸田市の上下水道事業では、水のポンプ制御に関する熟練者の運転記録をAIが分析し、誰もが効率良くポンプを稼働できるシステムを構築しました。このような協創活動を同社ではLumadaソリューションと称して、今回はLumadaを中心に、社会に役立ち海外でも展開できるDXの推進活動が評価されました。
日立のLumadaそのものは規模が大きく参考にしづらいのですが、同社のホームページにあるDX向け人材育成の記述にはヒントがあります。同社は、DXにはデザインシンキング的なアプローチが重要で、社内教育ではデザインシンキングを実践的な力として習得できるよう注力しています。デザイナーは常に見る人が喜ぶか、感動するためにデザインします。デザインシンキング的なDXとは、課題とユーザーの関係を意識し、解決策がユーザーにどのような満足を与えるかを常に意識して決定します。
「不動産事業のスマート化」SREホールディングス株式会社(不動産業)
DXグランプリ2021のもう1つの企業は、SREホールディングス株式会社です。同社の前身はソニー不動産、人材構成は不動産営業半分、エンジニア半分という不動産テック企業で、デジタル技術による不動産業務の効率化を進め、かつその技術の外販もしています。例えば「AI不動産査定ツール」は、従来人手が中心だった物件の査定を、過去の大量の査定事例からAIが短時間で自動査定するものです。高精度な査定書でも5分で作れるなど、大幅に業務を効率化できます。このような不動産テックの活動を、不動産業界そのもののデジタル度アップに貢献した点が評価されました。
SREホールディングスのDX度が高いのは、社長自らがDXを進める意義について、都度全社員に発信していることに加え、デジタルリテラシーアップを目指す社内研修があります。研修では、社内のエンジニアが講師になって、デジタル開発の経験がない人に印象深くデジタルリテラシーを伝えます。ポイントは、デジタルの力をどう使えば目の前の課題をどう解決できるかの勘所がわかるようになることです。課題発見と解決手段へのイメージ育成を養うのです。解決のツールはエンジニアがコードを書けば良いのですが、課題とその解決方向は現場が一番わかっていることが重要です。
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DXへの課題、障害
DXとは変革のことです。しかし変革の過程では、それを拒む障害があるのも事実です。
人材不足、DX教育が必要
DXが思うように進まない理由のひとつに「人材不足」があります。DXを実現するにはエンジニアの力は欠かせませんが、そもそもの課題は現場にあり、現場に課題発見の力がなければDXは一歩も進みません。ですからDXでは、全社的な人材の底上げが重要になります。そのために理想的なのは、社内でDX人材を育てられる環境を持つことです。知っている人間が、未経験の人間にわかりやすく伝えるという文化が大切です。
変革を阻む組織の壁
人材活用のためには、部署間のコミュニケーションも重要です。DXの課題発見はA部署でも、解決策はB部署ということもあります。部署間の風通しが良ければ、こんな協力もスムースに行えます。しかし部署が異なれば業務の優先度や評価基準も異なりますから、部署間の連携には難しい課題もあります。ですから、このような部署間の協力や人材活用については、経営層がしっかり理解し応援する必要があります。
現場をどう支援するか? 経営層の役割とは
経営層は現場の人材活用以外にも重要な役割があります。それは会社の先頭に立ってDXの旗を振る役目です。デジタルを活用して何をやるのか? なぜ自社がやるのか? そして何を価値として顧客に提供するのか! こういったことや優先順位を決めるのは経営層です。ここがぶれていては、本来の課題を見過ごしたり、見つかっても解決策の方向性が曖昧になってしまったりします。
DXのメリットとは
DXは変革と書きましたが、変革に向かう途中にはいろいろとメリットもあります。1つは生産性の向上です。課題が明確になり、その解決に全員が向かえば、人材の浪費が減り適材適所の配置も可能になります。人材の効率活用は、生産性のアップにすぐにつながる特効薬です。またこのときDXの基盤にクラウドを使うと、低コストゆえトライ&エラーがしやすくDXの失敗を少なくできるのでお勧めです。
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DXを行わないデメリットとは
会社のシステムが古いレガシーなものならDXを期に刷新できます。今後、古いシステムはその維持管理費が高騰すると言われています。少し乱暴ですが、DXを行わないデメリットとは古いシステムがそのまま残ってしまうことです。今後日本はSociety5.0のような新しい社会構造に向かっていきます。既存の古いシステムでは、このような激変に対応が難しいとも言われています。
どこから手をつければ良いか、わからない場合
DXは会社の変革だ! とわかっていても、最初からそんなだいそれたことはできない場合もあるでしょう。DXでは、変革とそれを目指す意思が重要ですが、もう1つ重要なのはスピードです。何も思いつかないなら、請求書、納品書、領収書、レシートなどの紙を電子化しましょう。そのときに、紙の書類をスキャンしてPDF化し、名前を付け、自動的にフォルダ分けし、保存する工程のどこかを自動化できるか考えてみましょう。これも小さいですがDXの一歩です。
まとめ
実はDXによる変革はたいへん難しいと言われています。2020年、経済産業省の調査ではDXに成功したと思う企業はたった3.1%とのことです。しかしそれでも目指さなければならないなら貴重な先人の足跡をたどることは大切です。
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