人材育成がカギ!日本企業におけるDX推進の課題と解決策とは
DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が、日本においても広く認知されるようになってきました。多くの企業がすでにDXの実現に向けて舵を切っていますが、「自社のビジネスではうまくいきそうにない」と考えている方も少なくないのではないでしょうか。
たしかに、DXを推進するには乗り越えなければならない大小さまざまな課題があります。しかし、日本におけるDXの課題には、共通する部分が多いのも事実です。そこで本記事では、DXの共通課題を克服して企業変革の成功確率を高める方法について説明します。
アンケート調査でわかった日本におけるDXの現状
2021年10月にIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が発表した「DX 白書 2021」には、DXに関する日米比較調査の結果が掲載されています。本調査により、日本と米国のDXには以下の点で違いがあることが明確になりました。
– 戦略や組織に関する違い
– 人材や社内教育に関する違い
– 技術やデジタライゼーションに関する違い
まずは、これら3つの観点から、日本におけるDXへの取り組み状況を紐といていきましょう。
戦略や組織に関する違い
今回の調査では、DXが全社的な取り組みになっているかという点で、日米の差が大きくみられる結果となっています。アンケートで「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」または「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取組んでいる」と回答した企業が日本では45.3%だったのに対し、米国では71.6%でした。
また、部門間の協調に関する質問についても「十分にできている」または「まあまあできている」と答えた企業は日本では39.9%、米国では86.2%でした。日米の差が、じつに2倍以上もあるという結果です。
日本では、DXにおける「組織の変革」というコンセプトの共通理解と、そのためのコミュニケーション形成に遅れがあることがわかるでしょう。
人材や社内教育に関する違い
人材の面では、「量」に関して日米の差が大きいことがわかりました。DXを担う人材が「大幅に不足している」または「やや不足している」と回答した企業が日本では76.0%だったのに対し、米国では43.1%となっています。
一方、従業員のITリテラシー向上に関する施策の実施状況について「社内研修・教育プランを実施している」とした企業は日本では22.0%、米国では54.5%でした。
これらの結果から、日本ではDXを担う人材の不足を強く感じている企業が多いにもかかわらず、社内教育が進んでいない現状がうかがえます。
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技術やデジタライゼーションに関する違い
AI技術の活用状況については、「導入している」と回答した企業が日本では20.5%でした。前年にIPAが公表した「AI 白書 2020」では4.2%だったことを考えると、AI技術の普及は急速に進んでいるといえます。しかし、米国でAI技術を「導入している」と回答している企業はすでに44.2%もあります。日米の差は、まだまだ大きいのが現状です。
また、DXにAIを活用する際に有効な「アジャイル開発」手法の活用状況についても、大きな差がみられます。アジャイル開発を「全社的に活用している」または「事業部で活用している」と回答した企業は日本では19.3%、米国では55.0%という結果でした。
DXでは、AIを含むさまざまなデジタル技術が用いられます。日本においては、AIをまだ十分に活用できていないという点が、DXの遅れにも関係していると考えられます。
日本企業に共通するDX推進の課題
DXを推進するなかでつきあたる具体的な課題には、大企業か中小企業かという規模の違いによるものや、製造業や建設業といった業種に特有の部分もあるでしょう。しかし、問題点から分類してみると、共通する部分が驚くほど多くみられます。
– 課題1:経営戦略がDXと結びつかない
– 課題2:システムの老朽化がITへの投資を妨げる
– 課題3:DXについて現場の理解を得られない
– 課題4:DXを推進するための人材が足りない
これらは、どのような企業にも当てはまる可能性のある課題です。それぞれについて、詳しく説明していきます。
課題1:経営戦略がDXと結びつかない
DX推進において、「DXをビジョンや経営戦略とうまく結びつけられない」というのは意外に多くみられる問題点です。一方で、DXそのものの必要性は認識しているために、戦略を後回しにして取り組みはじめてしまう例も少なくありません。
例えば、他社の成功事例を聞きつけて「自社でもできるだろう」と真似をしたり、IT部門に「AIを使って何かやれ」と丸投げしたりしてしまうようなケースです。はじめのうちは偶然うまくいったとしても、戦略不在のままで変革を続けることは難しいでしょう。経営戦略から乖離したDXは、やがて方向性を見失い成功確率も低くなってしまいます。
課題2:システムの老朽化がITへの投資を妨げる
多くの企業で社内システムが老朽化し、そのままではDXの基盤として活用できないことも問題視されています。度重なる改修により複雑化した既存システムに、機能の追加やセキュリティ強化のための時間と費用をとられているのが現状です。開発を外部ベンダーに頼っているケースでは、システムのブラックボックス化により契約終了が困難になり、コストだけが発生し続ける例も少なくありません。
このようなシステムの存在は、DX推進に欠かせないIT活用への前向きな投資を妨げる要因になってしまいます。経済産業省は、これら旧システムを刷新しなければ、2025年には多数の日本企業が大きな損失を出すことになると予測しています。
課題3:DXについて現場の理解を得られない
DXを全社的な取り組みにできないことも、多くの企業が抱える共通の課題となっています。DXとは、ビジネスプロセスや企業風土も含めた、組織全体にわたるドラスティックな変革です。全社一丸となって取り組まなければ、成功確率はどうしても低くなってしまいます。
しかし、DXを推進していけば業務内容や働き方にさまざまな変化が生じるため、現場からの抵抗にあうことも少なくありません。このような否定的な反応は、DXそのものについての知識不足から生じる部分もあるでしょう。なぜ自社にとってDXの実現が重要なのか、どのようなゴールを目指しているのかといった点を、社内の共通理解にできていないことが根本的な問題だといえます。
課題4:DXを推進するための人材が足りない
ここまでで紹介した3つの課題は、どれもDXを担う人材が不足していることと関係しています。
課題1でDXが経営戦略と結びつかないのは、DXを支えるデジタル技術がどのようにビジネスとつながるのかを説明できるマネージャーが不足しているためです。その結果として、DXが経営戦略から乖離してしまいます。
課題2で老朽化したシステムを刷新できない原因は、どのようなシステムがDXに適しているのかを理解し、実装できるエンジニアが不足していることだと考えられます。
課題3のように現場からの理解を得られないのは、DXそのものについて正しい知識をもつ人材の不足が原因です。DXについてリーダーシップを発揮できる人物が各部門の現場にいないために、DXを全社的な取り組みとする体制が整えられないのだといえます。
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DX推進の課題を解決する方法
DXを推進する企業によくある課題は、その解決策もある程度共通しています。
– 解決策1:DXのビジョンを明確にする
– 解決策2:全社共通のシステム基盤を構築・運用する
– 解決策3:DXやデジタル技術をリテラシー化する
– 解決策4:DXの人材は社内で教育する
これらは、DXにみられる共通課題を解決するための基本的な施策です。DXの成功確率を高めるために、ぜひ役立ててください。
解決策1:DXのビジョンを明確にする
DXを全社的な共通事項にするには、経営層の強い意思表示(コミットメント)が欠かせません。将来のビジョンについて明確にするとともに、なぜ経営戦略にDXを取り入れるのか、デジタル技術を活用してビジネスをどのように変えていくのかといった点を社内でしっかりと共有することが大切です。
その際、DXは一過性の取り組みではなく、継続的な変革だという点も意識して伝えたいポイントです。デジタル技術を取り入れながら、日々変わり続けられる組織を目指すことが基本路線となるでしょう。
解決策2:全社共通のシステム基盤を構築・運用する
DXは単なるデジタライゼーションではなく、その先にあるデータ活用によって切り拓かれる新しい企業の姿を目指す取り組みです。社内に点在するデータを埋没させないためにも、ITシステムを全社一貫で利用できるように整備することが理想的でしょう。
例えば、これまで工場のみで使われていた製造プロセスのデータを全社で共有したらどうなるか想像してみましょう。営業や小売の現場から、思いもよらない収益向上のアイデアが生まれるかもしれません。
このような一貫性のある共通基盤を構築する際には、既存システムとの整合性が問題になることも考えられます。ときには旧システムを廃止する決断が必要な場面も出てくるでしょう。
解決策3:DXやデジタル技術をリテラシー化する
DXの施策を滞りなく進められるようにするには、DXそのものに対する現場ごとの温度差をなくすことが肝心です。従業員ひとりひとりがDXの必要性を理解するとともに、その手段となるAIなどのデジタル技術に関する基礎知識を誰もが獲得できる環境を整えましょう。
これは、いわば「DXのリテラシー化」であり、DX推進における最初の土台作りにあたる取り組みです。全員が同じ目線でDXについて議論できるようになれば、理想的な組織だといえるでしょう。これまでビジネスとデジタル技術の間に横たわっていた溝が埋まり、よいアイデアも生まれやすくなっていきます。
解決策4:DXの人材は社内で教育する
DXのリテラシー化には、社内教育が欠かせません。社外からDXに詳しい人材を雇い入れることよりも、自社の強みをよく知る従業員を育成してこそ価値があると考えましょう。これにより、現場に眠っているさまざまな課題を解決するためのアイデアも生まれやすくなります。そのなかから優れたものを拾い、経営戦略に組み込むというのも堅実な方法のひとつです。
このとき、DXプロジェクトの指揮をとるマネージャーにとっても、DXの知識は重要な意味をもちます。デジタル技術の活用方法をビジネスの視点から検証し、各々の施策が経営方針から乖離してしまわないようにするためにも、DXそのものについて理解を深めておくことが役立つでしょう。
このように、社内教育によってDXを共通理解とする試みは、人材不足の単なる埋め合わせではありません。企業としての価値向上に、全社一丸となって取り組むために大切なことなのです。
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DX推進のカギは人材育成にあり
日本におけるDX推進の状況や、共通する課題と解決策について説明してきました。世界的にみると、日本企業はDXにおいてやや遅れをとっているのが現状です。しかし、よくある課題について知り解決しながら進んでいけば、DXの成功確率は高められるでしょう。そのためには、不足する人材をどのように育成し、DXをリテラシー化していくかがカギだといえます。
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DXの内製化と成功事例