DXは何から始めるべき?知っておきたい3つの施策フェーズと推進例
DX推進を任された担当者にとって「自社DXを何から始めたらいいか」という問いは日々頭を悩ませるものでしょう。とりわけ自社DXの計画や各DX施策の検討など、未経験の物事に取り組む機会も多いのではないでしょうか。多くの担当者が業界事例などを参考に自社DXの大まかな流れを決めていきますが、まずは日本企業が置かれている状況や、DXの最新事情について理解を深めることが重要です。DXを前に多くの日本企業が抱える問題を知り、自社の状況を俯瞰する視点が必要といえます。その後に自社に必要なDXについて、DXのフェーズを確認しつつ推進していくことがポイントとなります。
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DXを始める前に知っておきたい3つの課題
DX推進を任された担当者なら是非知っておきたいのが以下の3つの課題です。
- 2025年の崖
- DXの本質
- デジタル産業を目指す企業のジレンマ
それぞれ経済産業省が公表した「DXレポート」群で指摘されている内容であり、自社DXを計画・推進するにあたって知っておくべき内容となります。これらの内容を通じて、「DXが必要とされる理由」や「DX推進で直面する課題」を事前に知れるため、自社DXの施策を展開する際の参考となるでしょう。
2025年の崖
「2025年の崖」は、経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」によってその名が知られることになりました。2025年の崖とは「残存するレガシーシステムを2025年まで放置した場合、年間最大12兆円の経済損失(2018年の約3倍)が生じる可能性がある」ことを意味しています。レガシーシステムとは文字通り「時代遅れになったシステム」を指しており、データ収集・活用が求められる昨今において、データ連携や蓄積、経営・マーケティングへの活用、といった作業に支障をきたすようなシステムが該当します。企業はレガシーとなったシステムを塩漬け・刷新することで、データ活用基盤を整えることができ、ビジネス競争力を高めることができるとされているのです。
しかしながら基幹システムの塩漬け・刷新となると、現状のシステム資産を洗い出したり、システムの構築・移行方法を検討したりと、多大な労力をかけなければなりません。既存の業務もあるなか、プロジェクトメンバーを発足し、自社に必要な基幹システムを再構築する作業は決して楽な道のりではないでしょう。自社のビジネスに必要なシステム・ツールを確認・検討し、2025年に備えて計画的にデータ活用基盤を整えていく必要があります。
DXの本質
2018年9月に経済産業省から公表された「DXレポート」によって、企業のDX推進は一斉にスタートしたように思われましたが、2020年12月に公表された「DXレポート2」では、実に9割以上の企業が「DXに未着手」もしくは「散発的な施策に留まっている」と回答したことが分かっています。依然として多くの企業が自社DXに取り組めていない状況が浮き彫りになったのです。しかしそうした状況下でも、自社DXを力強く推進し、DX関連施策を次々と展開している企業があることが分かっています。
DXレポート2ではそのような「DX推進企業」に見られる共通点として、以下の2点を挙げています。
- テレワークをはじめ社内のITインフラや就業規則等を迅速に変更してコロナ禍の環境変化に対応できたこと
- これまで疑問を持たなかった企業文化の変革に踏み込むことができたこと
これら2つの共通点から「変化し続けること」がDXの本質だと分かってきたのです。「レガシーシステムを刷新したから終わり」「取り急ぎIT機器を導入・整備したから終わり」ではなく、「DX関連施策にどれだけ予算を割き、継続的な施策として展開・評価してきたか」が今日の勝敗を分けるものとなっています。
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デジタル産業を目指す企業のジレンマ
DXレポート2では「DXの本質」の他に、「ユーザー企業の変化を起点としたベンダー企業の変革」にも言及しています。DXに際してユーザー企業はシステムやツールの刷新・選定を行いますが、その際にベンダー企業との理想の関係性が示されているのです。
これまでのユーザー企業とベンダー企業の関係性の多くは「相互依存関係」にありました。そうした関係はユーザー企業にとって「委託によるコストの削減」、ベンダー企業にとって「受託による低リスク・長期安定ビジネスの享受」というメリットを生み出していましたが、「デジタル時代に必要な能力を獲得できない」状況を生み出す原因となってしまっているのが現状です(低位安定)。ユーザー企業とベンダー企業の相互依存関係を解消できない場合、両者はデジタル競争の敗者となる可能性が高いと分析されているのです。
しかし両者には以下3つのジレンマがあり、これらのジレンマを打破するためには企業経営者・経営層の強いコミットメントが必要とされます。
【危機感のジレンマ】
- 目先の業績が好調のため変革に対する危機感がない
- 危機感が高まったときはすでに変革に必要な投資体力を失っている
【人材育成のジレンマ】
- 技術が陳腐化するスピードが速く、時間をかけて学んだとしても、習得したときには古い技術となっている
- 即座に新技術を獲得できる人材は引き抜かれてしまう
【ビジネスのジレンマ】
- 受託型ビジネスを現業とするベンダー企業が、ユーザー企業のデジタル変革を伴走・支援する企業へと変革しようとすると、内製化への移行により、受託型ビジネスと比べて売上規模が縮小する
- ベンダー企業がユーザー企業をデジタル企業へ移行する支援を行うことにより、最終的には自分たちが不要になってしまう
引用元:経済産業省「DXレポート2.1」
ユーザー企業とベンダー企業が協力し、上述のジレンマを乗り越えた暁には、価値創出にデジタルケイパビリティ(ビジネスケイパビリティ(価値を創出する事業能力)をソフトウェアによってデジタル化したもの)を活用して他社・顧客とつながる「デジタル産業」が形成されます。デジタル産業では、バリューチェーンに他社サービスを巻き込んでおり、顧客からのフィードバックがタイムリーに自社サービスへ反映される状況が生まれています。
経済産業省がまとめた「DX推進ガイドライン」とは?
日本企業がDXを行うにあたって直面する課題は「DXレポート」を閲覧することで確認できますが、DXの進め方は「DX推進ガイドライン」を参考にすることで大枠を掴むことができます。DX推進ガイドラインとは、経済産業省がまとめた「DXの推進方法」で、DX推進における経営の在り方や仕組みの構築、実際の改革ステップなどを記したものとなっています。DXレポートの姉妹本のような感覚で、自社DXの推進方法を検討する際の参考にすると良いでしょう。
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DX推進のフェーズは主に3つ
DX推進には主に以下の3つのフェーズがあります。
【Lv.1:バラバラに実施(個別最適)】
各部門が別々でPoC等を実施しており、全社的な連携は取れていない状況。目的も部門内で閉じている状況
【Lv.2:DX推進の集約組織設置】
DX推進を全社的にリードしていく集約的な組織が設置されており、経営レベルでDXの取り組みが始まる状況
【Lv.3:DX戦略の立案・部門間連携】
DX戦略を立案し、各部門が連携しながら全社最適な行動が取れている状態。本格的な成果が出始めるような状況
自社DXの多くは、いきなり「DX推進の集約組織が設置される」というよりは「各部門が個別最適でPoCを実施している」という状況から始まります。そこから戦略的なDX推進を実行すべく、集約組織が設置され、全社最適を意図したDX戦略が策定されます。全社最適を検討する頃には各部門が連携しながらPoCを実施しているため、目に見える成果が出るようになるのです。各フェーズの経営者の動き方、具体的な施策については以下の記事で解説しております。
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DXは何から始めるべき?推進例をステップで解説
DXの推進例として、今回は以下4つのステップを紹介します。
- 全社的なDXリテラシーの向上
- 事業アイデアに基づいた個別最適施策の実行
- DX推進チームの設置と連携強化
- 中長期的なDX施策の立案
ポイントは最初のフェーズである「全社的なDXリテラシーの向上」です。はじめに全社的なDXリテラシーの向上を図ることで、社員の自社DXに対する目線を合わせることができます。自社DXの目線を合わせることで、各部門の責任者のコミットメントが得られ、フェーズ3の「DX推進チームの設置」へのスムーズな移行が可能となります。いきなり個別最適施策に入るのではなく、全社的な取り組みを行うことが成功への鍵を握るのです。
全社的なDXリテラシーの向上
DXのファーストステップは「全社的なDXリテラシーの向上」を意図した施策であることが理想となります。なぜならはじめに自社DXの目線を合わせることで、今後打ち出していく数々の施策や、推進チーム設置において社員のコミットメントが得られやすくなるからです。また全社的にDXについて学ぶ機会を設けることで、経営層の意識改革やコミットメントを期待することができます。既に個別最適施策を実施している場合でも、全社的なDXリテラシーの向上を意図した講座・ワークショップは効果的ですので、是非検討してみてください。
事業アイデアに基づいた個別最適施策の実行
全社的なDXリテラシーの向上は「講座」や「ワークショップ」などで実施されることがポイントです。自社にリソースがない場合は、DX推進支援を行う外部パートナーなどに協力を依頼し、社員向けの講座・ワークショップを計画しましょう。講座・ワークショップでは業界事例などから自社の事業アイデアをイメージすることが可能です。個別最適で実施するDX施策も、事業アイデアに紐付いた施策であれば、スムーズな展開が期待できるでしょう。
DX推進チームの設置と連携強化
DX推進チームの設置方法には以下のような種類があります。
- 経営直下の統括組織:DX推進組織が、全社DX戦略・推進を支援
- 事業特化型組織:各事業部門にDX推進担当を配置し、事業別に新規事業開発、業務効率化・高度化を推進
- 事業部型の独立組織:独立した新組織を設置し、全社目線で新規事業を開発。開発後に事業部門に引き渡す形態
- 社外組織(子会社):DX推進機能を担う子会社を設置し、事業として独立させる最も自由度の高い形態
現場は通常業務で忙しく対応できないケースが多いため、よく用いられる形態は「経営直下の統括組織」です。経営層のリードをもとに推進できるため、事業部門との調整を迅速に進めることができ、複数部門のDX推進において最も効果的とされています。
中長期的なDX施策の立案
DX推進組織を設置した後は、中長期的なDX施策を立案しなければなりません。DX戦略は経営課題との整合性がとれていることが重要であり、「経営課題を解決するためのDX」として認識されることが成功のポイントとなります。DX施策ではしばしばデジタルツールの導入が行われますが、現場のニーズに沿ったものでなければ使われず、また経営課題の解決を意図したデジタル導入でなければ、使われたとしても企業経営へのインパクトは小さくなります。「デジタルツールを導入することでどのような投資対効果が見込めるのか」「自社DXは経営課題の何を解決するのか」といった問いに対する答えを明確にすることが重要なフェーズとなります。
まとめ
今回の記事を読み、「自社DXの始め方」についてイメージが膨らんだのではないでしょうか。DXに関する最新事情は常にキャッチしつつ、ファーストステップとして「全社的なDXリテラシーの向上」を図るところからスタートすると良いでしょう。
弊社では全社的なDXリテラシーの向上を目的とした講座を用意しております。様々な業界のDX事例を50件ほど解説するため、「先進技術をどのようにビジネスに活かすのか」を具体的に知ることができます。また講座修了直後には「現場視点のアイデア」を吸い上げるためのアイデアシート記入・ワークショップを実施しており、アウトプットを出す場としてもご活用いただけるため、自社DXの確かな1歩を踏み出せることでしょう。最短1日で完了するカリキュラムとなっておりますので、この機会に検討されてみてはいかがでしょうか。
から始めるDXの内製化と成功事例