「DXリテラシー標準(DSS-L)」が示す企業変革のための行動と学習の指針とは
2022年3月に、経済産業省がIPA(情報処理推進機構)とともに公表した「DXリテラシー標準(DSS-L)」は、働き手ひとりひとりがDXリテラシーを身につけるための「学び」の指針です。同年12月に公表された「DX推進スキル標準(DSS-P)」とあわせて、「デジタルスキル標準(DSS)」を構成しています。
本記事では、「DXリテラシー標準」の内容についてわかりやすく解説していきます。「DX推進スキル標準」と「デジタルスキル標準」については以下の記事で解説しているので、あわせて参考にしてください。
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DXリテラシー標準における4つの大項目
「DXリテラシー標準」策定の狙いは、DXリテラシーを獲得して誰もが変革の当事者として行動できるようになることです。そのため、DXに参画するすべてのビジネスパーソンが対象となっています。なお、略称の「DSS-L」は「Digital Skill Standard – Literacy」の略です。
「DXリテラシー標準」は、以下の4つの大項目から構成されています。順番に見ていきましょう。
– 1:マインド・スタンス
– 2:Why(DXの背景)
– 3:What(DXで活用されるデータ・技術)
– 4:How(データ・技術の利活用)
1:マインド・スタンス
「マインド・スタンス」の大項目では、社会が変化するなかでも新たな価値を生み出し続ける人材に求められる、意識や姿勢・行動が示されています。ほかの3つの大項目に比べると、DXにおけるより普遍的な内容を定義したものだといえるでしょう。
基礎としてのマインド・スタンス
新たな価値を生み出すための基礎となるマインド・スタンスとして、以下の4つの項目が定義されています。
– 変化への適応:環境の変化に適応するために主体的に学び、新たな行動様式や知識・スキルを獲得していくこと
– コラボレーション:新たな価値を生み出すためには、さまざまな専門性を備えた人との協働が重要だと理解すること
– 柔軟な意思決定:従来の価値観が通用しないような場面でも、価値創造に向けて臨機応変に意思決定を行うこと
– 事実に基づく判断:事実やデータに基づいた判断の有効性を理解し、勘や経験ばかりに頼らない意思決定を行うこと
デザイン思考/アジャイルな働き方
デザイン思考やアジャイルな働き方について、以下の3つのマインド・スタンスが定義されています。
– 顧客・ユーザーへの共感:顧客・ユーザーの立場でニーズや課題の発見に努めること
– 常識にとらわれない発想:従来の価値観や仕事の進め方にとらわれず、ニーズや課題に対するアイデアを考えること
– 反復的なアプローチ:取り組みを小さなサイクルに分けて改善を繰り返す過程から得られる学びをひとつの「成果」とすること
生成AI利用において求められるマインド・スタンス
2023年8月、生成AIの急速な普及を受けてデジタルスキル標準が改定されました。DXリテラシー標準の「マインド・スタンス」には、以下の内容が追加されています。従来の7項目(基礎となる4項目とデザイン思考/アジャイルな働き方の3項目)の分類が変わったわけではありませんが、最先端のAIを事業や業務に活用していくためにも、把握しておくとよい内容でしょう。
– ビジネスパーソンとしてのスキルに基づいて、生成AIを生産性の向上やビジネスの変革に利用すること
– 生成AIを利用する際には権利侵害や情報漏洩、倫理的な問題などへの注意が必要だと理解していること
– 生成AIにより生活やビジネスが変化していくと見越して学び続けること
2:Why(DXの背景)
2つ目の大項目「Why」は、なぜDXを推進する必要があるのかということです。人々の価値観や社会・経済の変化について知り、DX推進の必要性を各自が理解することが学習のゴールとなります。
学習の指針となる、以下の3項目が定義されています。
– 社会の変化
– 顧客価値の変化
– 競争環境の変化
社会の変化
国内外の社会的な変化について知るのは、DXにおいて大切なことです。海外に比べると、日本のDXには遅れが見られます。
ここでは学習すべき項目の例として、SDGsをはじめとするメガトレンドやSociety5.0などが挙げられています。社会課題の解決にはデータとデジタル技術の活用が有用だと理解したうえで、DXへの取り組みを進めることが重要です。
顧客価値の変化
デジタル技術の発展は、人々の行動や価値観にも影響を与えてきました。製品・サービスへのアクセス手段や、顧客・ユーザーのニーズが多様化している点を理解する必要があります。
学習項目の例としては、新たな広告や行動分析の手法、デジタルサービスの種類について知ることなどが挙げられています。
競争環境の変化
デジタル技術は、ビジネス上の競争のあり方を変える要素でもあります。業種や国境といった垣根を越えてビジネスの機会が広がるとともに、企業としての競争力の源泉が変化する可能性もあることを知っておかなければなりません。
ここでは動画配信サービスやCtoCプラットフォームの登場、定額制サービスの普及などが、学習すべき具体的な事例として挙げられています。
3:What(DXで活用されるデータ・技術)
3つ目の大項目「What」は、DXの手段として活用されるデータとデジタル技術のことを指しています。DXを実現するには、日頃からこれらの最新情報を把握し、知識を深めておくことが大切です。
「データ」と「デジタル技術」のそれぞれについて、どのような学習項目があるのか説明します。
データ
データについては、以下の4項目が定義されています。
– 社会におけるデータ:数値はもちろん文字や画像、音声なども社会で広く活用されているデータの一種だと知ること
– データを読む・説明する:データから意味を見出すには確率・統計の知識によって分析し、適切な説明を加える必要があると理解すること
– データを扱う:デジタルデータを扱うには、データ抽出・加工の手法やデータベースの技術などが求められる場面もあると知ること
– データによって判断する:経営や業務にデータを役立てるには、分析結果からアクションを決定するデータドリブンなプロセスと、成果をモニタリングする手法が必要だと理解すること
デジタル技術
デジタル技術の学習項目としては、以下の4つが定義されています。
– AI:AIの急速な発展で何が可能になったのかを知るとともに、生成AIも含めた最新の動向についても把握しておくこと
– クラウド:クラウドの仕組みやオンプレミスとの違い、SaaSやIaaS、PaaSといった提供形態の種類について知っておくこと
– ハードウェア・ソフトウェア:コンピュータが動作する仕組みや、社内システムがどのように作られ、運用されているのかを理解していること
– ネットワーク:ネットワークの基礎や、インターネットで利用する電子メールなどのサービスについて知っていること
4:How(データ・技術の利活用)
4つ目の大項目「How」は、データとデジタル技術をどのように利用するかということです。DXに参画する各自が、デジタルツールを適切に用いるスキルを身につけておくことが大切だとしています。
ここで学習すべき項目は、「活用事例・利用方法」と「留意点」の2つに大別されています。
活用事例・利用方法
活用事例と利用方法については、以下の2つの内容が示されています。
– データ・デジタル技術の活用事例:データとデジタル技術がさまざまな業務に有用だと理解するとともに、生成AIを含む活用事例についても知っていること
– ツール利用:ツールの使い方を把握するだけでなく、状況に応じて適切なツールを選択できること
留意点
データとデジタル技術を活用するにあたり、以下の3つの留意点が挙げられています。
– セキュリティ:セキュリティ技術の仕組みと、個人がとるべき対策について理解していること
– モラル:データやインターネットの利用を通じて起こりうるトラブルについて知り、適切に行動できること
– コンプライアンス:個人情報や著作権などの保護について、法規制やルールに則った行動ができること
デジタルスキル標準に沿った人材育成でDXの推進を
DXリテラシー標準は、DXが加速する社会のなかで働き手ひとりひとりに求められる知識・スキルがあることを示しています。DXの実現を目指す企業では、社内研修の指針として取り入れるのも有用でしょう。DXのリテラシー教育には、弊社の「DXリテラシー講座」がおすすめです。
また、DXを推進するにはDXリテラシーに加えて、さまざまな専門性を備えた人材を育成することも欠かせません。弊社では「デジタルスキル標準」に準拠しながら各社のDXに求められる人材像を定義し、カリキュラムの策定や実施、成果のトラッキングなどをサポートする「DX人材育成プランニング」もご提供しています。詳しい資料は「ダウンロード」ボタンよりご覧いただけますので、ぜひご活用ください。