【保険業界でのAI活用事例】AI(人工知能)を活用した新しい契約者との関わり方
保険業界について
保険業界は、国民保険とは別に、不測の事態に備えて加入できる保険を取り扱う業界です。火災保険や自動車保険、生命保険などがあり、様々な形で不測の事態に備えることができます。
また、国民の人口減少、高齢化に伴い、国の財源が減っていることから、将来への備えとして、民間の生命保険の役割が大きくなってきています。
一般社団法人生命保険協会(以下、生命保険協会)が発行している『生命保険協会110年小史』によると、個人の生命保険の新契約件数は、平成20年度以降の10年間で約27%増加しています。
また、個人保険・種類別新契約件数の推移を見ると、終身保険と定期保険の構成比が、平成20年度では28.2%だったのが、平成29年度では7%増加して35.2%となっています。
また、ここ10年の間にも、日本での様々な災害や社会問題の影響を受けて、損害保険の重要性は増しています。
日本損害保険協会が発行している『ファクトブック2020』によると、2010年度から2020年度の10年間で、元受正味保険料(顧客との直接の保険契約で発生する収入)は、10年間で約2兆円弱の増加です。
これは、様々な災害や社会問題が発生していることによる国民の不安の現れと考えられます。
また、保険業界は2007年の銀行の保険販売の全保険商品の解禁や、インターネット販売専門の生命保険会社の営業開始によって、個人保険の販売方法が増えてきています。
それにより、最近は保険料でも価格競争が起きています。
生命保険文化センターが発行している「生命保険に関する実態調査」によると、生命保険の世帯年間払込保険料が平成18年の52.6万円から、平成30年の38.2万円に下がっています。
特に簡易保険は、平成18年から平成30年の間で7.1万円も年間払込保険料が減っています。
様々なプランの保険が提供されるようになり、自分に合った保険の形を選べるようになってきていると言えます。
保険業界の課題
現在の保険業界が抱えている課題は大きく下記の2つが挙げられます。
1. 保険金請求の評価に時間がかかる
2. 保険商品の量が多く、どの保険が最適かが分かりづらい
ひとつずつ見ていきましょう。
1.保険金請求の評価に時間がかかる
損害保険の保険金請求には、現場の調査が必要になります。
主に、軽微な損害の場合は保険会社の社員が、損害の大きな場合に損害保険登録鑑定人が調査を行います。
損害保険登録鑑定人とは、日本損害保険協会が実施している「損害保険登録鑑定人」認定試験を合格し、日本損害鑑定協会に登録している人のことです。2020年10月1日の時点で、990名登録されています。
保険会社は申請の金額が一定の額を超えると、現場に損害保険登録鑑定人を派遣します。
近年の自然災害の多発や、大規模化に伴い、個人宅にとどまらず、工場や倉庫にも被害が発生しています。
地震や台風などの大規模な災害が起きた地域に入る際や、工場や倉庫の屋根などの被害を確認する際に担当者の危険が伴います。
また、規模が大きければ大きいほど調査完了までの時間が長くなってしまいます。
一方で、車を擦るなどの軽微な損害の場合にも、保険会社による調査が行われます。保険金請求の必要な手続きをしてから、約30日以内を目安に保険金が支払われます。
実際に事故によってついた傷か、事故後に走行していた際に起きた故障かなど、慎重な調査が行われるため、どうしても長くなってしまいます。
このように、保険金請求の評価・調査に時間がかかると、サービス提供に時間がかかり顧客満足度が下がるだけでなく人件費が増えてしまい、保険会社にとっては負荷となってしまいます。
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2. 保険商品の量が多く、どの保険が最適かが分かりづらい
2007年の銀行の保険販売の全保険商品の解禁や、インターネット販売専門の生命保険会社が営業を開始に伴い、保険商品の数が増えてきました。
さらに保険の種類は死亡保険や医療保険、がん保険などの生命保険や、学資保険や個人年金保険などの貯蓄型保険、さらに火災保険や、地震保険など多岐にわたります。
「実際今の自分にはどの保険があっているんだろうか?」
「A保険会社のこの保険が良さそうだが、B保険会社のこの保険も良さそうだ。」
といったように、自分に一体どれが最適な保険なのかわかりにくい状態にあります。
顧客が最適な保険が分からないと、他社で契約したり、保険自体の契約を避けたりと、離脱の原因となってしまいます。
そのため、選択肢が多すぎることは、保険会社にとって機会損失を生んでしまう可能性があります。
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保険業界におけるAIの活用事例
AI搭載ドローンを活用して、危険の及ぶ範囲も調査可能に
(引用元:東京海上日動火災保険プレスリリースより)
AI搭載ドローンを使うことで、自然災害により危険がおよび、立ち入れない地域でも調査を行うことができます。
事例
東京海上日動火災保険(以下「東京海上日動」)が、AIドローンを用いて被害状況を分析しています。
課題
自然災害が発生した際、被害を受けた地域が危険と判断された場合、調査のための担当者を派遣することができません。
それにより、保険金請求から支払いまでの期間が長期化してしまうことが課題でした。
解決策
イスラエルに本社がある、ドローンによる空撮技術や、画像のAI解析に強みを持つAirobotics co., Ltdと東京海上日動が連携し、ドローンで撮影した画像をAIで解析します。
ドローンで撮影した画像をAIで解析することにより、損害調査から修理費の算出までを行う取り組みを開始しました。
自然災害の被害の大きい地域や、工場や倉庫で発生した被害に対して、迅速な保険金の支払いにつながっています。
期待される効果
東京海上日動は通常1ヶ月程度を要する保険金の支払い期間を大幅に短縮できるとしています。
(参照元:東京海上日動保険株式会社、ドローンとAIを活用した保険金支払いに関する取り組み)
AIによるから保険金を算出し、支払いまでの期間を短縮
(引用元:三井住友海上保険株式会社、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
ニュースリリースより)
損害は自然災害など大きなものだけではありません。毎日のように発生している交通事故などによる車の損傷も、損害保険の対象となります。
事例
三井住友海上火災保険株式会社(以下「三井住友海上」)とあいおいニッセイ同和損害保険株式が、イギリスのスタートアップ企業のTractable LtdのAI技術を活用し、自動車事故の車両修理見積もりを自動点検するシステムを導入しました。
課題
従来は、修理工場で作成された見積書を、保険会社の専門社員が点検していました。この作業が入ることで、保険金の支払いが長期化していたことが課題でした。
解決策
イギリスのスタートアップ企業のTractable LtdのAI技術を活用したシステムを使用することにより、専門社員による点検を省略しました。また、これまでの点検プロセスをAIが代わりに行うことにより、修理費人体プロセスの大幅な省略化が可能になります。
効果
従来、数日を要していた修理内容の点検業務を数分で完了できます。
よって、保険金支払いまでに約30日間要していた期間を、約2週間程度に短縮します。
(参照元:三井住友海上火災保険株式会社、AIによる自動車修理見積もりチェックシステム)
AIによる分析で最適な保険を提案
(引用元:三井住友海上火災保険株式会社ニュースリリースより)
販売のチャネル数増加に伴い、保険商品も多種多様になりました。
その中から顧客自身に最適な保険を選ぶのは、容易なことではありません。
事例
三井住友海上は、新たな代理店システム「MS1 brain」を開発しました。
課題
保険の形態が複雑になっていく中で、契約者自身で最適な保険を選ぶのは容易なことではありません。
また、販売員も契約者のニーズに沿った最適な提案ができていないことが課題でした。
解決策
三井住友海上は、新たな代理店システム「MS1 brain」を開発しました。
「MS1 brain」は、契約者の様々な情報を収集・分析・活用します。
顧客と代理店、三井住友海上のビックデータとAIをつなげることで、契約者のニーズを的確に把握し、最適な商品・サービスの提供を実現しています。
また、契約者のニーズやリスクの変化を察知して、補修内容の見直しや、新たな保険商品等を最適なタイミングで提案することができます。
効果
2020年6月26日の会見にて、「MS1 brain」の構築事例を紹介しました。2020年2月の本稼働より前に、全国30店舗で行われていたトライアルでは、保険契約付帯率が2.5倍に向上しました。
(参照元:IT Leaders,三井住友海上、代理店支援システムにAIロボットを搭載、顧客への適切な提案を可能に)
(参照元:三井住友海上、AIを活用した新たな代理店システム「MS1 brain」を開発)
まとめ
今の日本ではいつ自然災害が起きるのかわからない状態です。また、交通事故などの思いもよらない損害もいつ起きるかわかりません。日本の中での保険の重要度はますます上がっていくでしょう。
今後も、保険業界の様々な業務がAIによって最適化され、ますます業務が高速化されていくことが期待されます。
業務の効率化や高速化の事例として、他の業界の方も、保険業界のAI(人工知能)活用事例を参考にしていただけるとよいのではないでしょうか。
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