【エッジAIの活用事例】AIカメラからFA機器まで市場規模は拡大の一途
エッジAIとは?
エッジAIとは現場のデバイスそのものにAI技術を実装したもので、クラウドAIと対比されることの多い技術です。
クラウドAIは、ネットワークを通して大量のデータをデータセンターに送信し、データセンター内のハードウェアで高速処理するものです。マシンパワーが強いため、大量・複雑な処理が可能であり、設備の増設が容易なためスケーラブルであるというメリットがあります。
対して、エッジAIはエッジデバイスで推論と学習の両方を行うものや、エッジデバイス上では推論のみを行い、大量の計算量を要する学習はクラウド上で行うものです。
エッジAIのメリットとしては、データの送信が最小限であるためセキュリティリスクが小さい点、通信ネットワークや大規模なハードウェア、通信料が不要であるためローコストで実装可能な点、通信遅延が発生しないため即応性に優れる点が挙げられます。
それぞれの特徴に応じて、今後使い分けが進んでいくことが期待されています。
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エッジAIの歴史と最新の動向
エッジAIの歴史
エッジAIに注目が集まる背景として、クラウドサービスとIoT界隈の発展が大きく関わっています。
まず、汎用性が高く、スケーラブルな特徴を持つクラウドサービスを、Amazon, Microsoft, Googleの3社が充実させました。3社は、人工知能エンジンや、それらを組み込んだ機能をクラウドサービスとして提供開始したため、AI技術の利用が容易になりました。
そして、IoTは膨大なデータを生成するため、これらのデータの収集・蓄積・AIによる分析をクラウド上で行うクラウドAIが注目されるようになりました。
一方で、即応性を求められる自動運転などのシーンにおいては、通信遅延などが大きなリスクになりえます。そこで、エッジデバイスに搭載されたAIが推論を行う、エッジAIも次第に注目されるようになり、今も開発が進められています。
エッジAI業界における最新の動向
エッジAIの市場は拡大の一途を辿ると考えられています。富士経済グループ『2019 人工知能ビジネス総調査』によると、エッジAIコンピューティングの市場規模は、2018年度に推計110億円、2030年度には推計664億円までに拡大が見込まれています。
また、エッジAI市場には産業機器向けと民生機器向けの2つの市場があるとされています。
産業機器とは具体的に、FA(ファクトリーオートメーション)機器、建設機械、物流機器などを指します。機器の制御や最適化、熟練工の技術継承などを目的として、2018年時点では多くが実証実験の段階にあるとされています。
民生機器は具体的に、スマホ、カメラなどのモバイル機器やスマートミラーを指し、これらにAIを搭載して被写体を自動認識する画像認識の実装が進んでいます。産業機器向けに比べてデバイス数が多いため、民生機器市場は2021年度以降、急速に拡大する見込みです。
また、5Gの普及によりエッジデバイスの可能性が広がります。
第一に、エッジAIは即応性が求められる場面で利用されますが、5Gの「超高速」「超低遅延」といった特徴により、学習データの送受信における通信速度向上、遅延軽減が見込めます。
第二に、エッジAIの数が増え、通信容量が膨大になることが予想されていますが、これも5Gの「超多数同時接続」によって克服されると考えられます。
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エッジAI技術の活用事例
流通業界におけるAIカメラ導入によるロス削減・業務効率化
(引用元:http://www.trial-net.co.jp/cp/mediakit_ssc_aicamera/)
流通業界では、AIで克服されうる課題が数多く存在するとされており、特に実店舗においてはEC業界の王者である米アマゾン社もAIを用いたショッピングカートの導入を試みるなど、エッジAIの活用が期待されています。
事例
トライアル社がスマートショッピングカート、リテールAIカメラ導入
課題
トライアルでは、購買時のデータ不足や欠品による販売機会の損失、ニーズの多様化、レジ打ちや売り場確認の人件費の増加などが課題となっていました。
トライアルの試算では、これらが原因で流通業界には年間46兆円のムダ・ムラ・ムリ(広告費8兆円/営業コスト6兆円/リベート関連費14兆円/ロス関連11兆円/新製品開発コスト7兆円)が存在しており、IoTデバイスによるソリューションの模索がなされていました。
解決策
トライアルは小売店での使用に特化したAIエンジン搭載カメラであるリテールAIカメラ、タブレットとバーコードリーダーを搭載したセルフレジ機能付きの買い物カートであるスマートショッピングカート(SSC)を開発・導入しました。
リテールAIカメラは、購入順序の把握、棚前行動の分析、滞在時間の把握、欠品状況の監視、アラートによる補充タイミングの通知、棚割最適化を可能とします。
スマートショッピングカートはレジレス・キャッシュレスを実現するだけでなく、タブレットがメディアとして機能し、レコメンドやレシピ提案を行います。
効果
スマートショッピングカートの導入により、レジの所要時間が短縮されました(有人レジ125秒、無人レジ75秒、SSC32秒)。また、来店頻度が13.8%増加しました。
また、リテールAIカメラの導入により、棚回転効率が28.7%増加し、欠品率が12.2%改善しました。
(参考:http://www.trial-net.co.jp/cp/mediakit_ssc_aicamera/)
化粧品業界のスマートミラー導入による売り上げ増加
(引用元:https://www.perfectcorp.com/business/successstory/detail?id=6)
近年のAIによる画像認識技術の向上により、美容室やアパレル店舗などでスマートミラーが活用され始めています。同様の技術がスマートフォン上でも実現できることにも期待が集まっています。
事例
エスティローダー社×パーフェクト社 スマートミラー導入
課題
化粧品の色味を探す工程にかかる時間や手間、肌へのダメージが試用の障壁となっていました。また、エンゲージメントの維持においても、オンラインとオフラインを効果的にリンクさせるマーケティング戦略を模索していました。オンラインサイトでの購買や、時間がなく店頭でのタッチアップが出来ない消費者の購入前の不安についても対策が必要でした。
解決策
店頭ではスマートミラー、オンラインではスマートフォンやPCを利用して、パーフェクト社のAIスマートシェードファインダーをはじめとするソリューションを導入しました。
リップのバーチャルメイクでは何十色もの色味を数十秒の間に試すことができます。AIスマートシェードファインダーではAIを応用したディープラーニングで、明暗やアンダートンを含む約90,000種類の肌色データを基に、利用者の肌に最適な色味を検出しておすすめし、バーチャルシュミレーションまで提供提供可能です。
効果
リップのバーチャルメイクの導入により、トライをした商品の売上率が約2.5倍上昇しました。また、AIスマートシェードファインダーにより、顧客のロイヤリティもアップしました。
オンラインではより若い層がスマートフォンからバーチャルメイクやAIスマートシェードファインダーを利用する傾向にあり、オンラインの売上貢献に加えて、店頭来店のきっかけにもなっています。
(参考:https://www.perfectcorp.com/business/successstory/detail?id=6)
生産ラインでのエッジAIによる制御効率化
(引用元:https://aising.jp/algorithms/)
018年時点において、多くが実証実験の段階にあると述べた産業機器へのエッジAI活用ですが、既に実装され、成果を上げている例もあります。導入コストが低く、古典制御の代表であるPID制御と置き換えて高い成果をあげている点からも、エッジAIの可能性が伺えます。
事例
オムロン×エイシング 巻き線機
課題
巻き線機はフィルムの特性変化や付け替えによって固有振動数が変わるため、その都度補正し、高速で処理する必要があります。補正を間違えれば張り合わせにズレが生じ、不良品になってしまいます。従来のPID制御では、振動を収めるのに10秒を要しており、その高速化が課題でした。
解決策
エイシング独自の学習技術であるDBT(ディープバイナリツリー)を採用したエッジAIを用いて、振動の予測・補正を行いました。
エイシングのエッジAIは、大がかりな設計変更や工事が不要、低コスト、AIエンジニアによるチューニングが不要、繊細で高度な制御にも対応可能といった多くの利点を備えています。
効果
巻き取り線機の振動抑制制御において、数百マイクロ秒のオーダーで学習と予測することで、従来は10秒要していた機器特性の変化に対する補正を3秒で行うことに成功しました。
その結果、従来は20mほど発生していた不良品が、1/3以下に減少しました。
(参考:https://aising.jp/algorithms/)
まとめ
エッジAIはクラウドAIと対比される技術で、セキュリティリスクが小さく、ローコストで、即応性に優れています。産業機器と民生機器のどちらにも活用されますが、デバイス数の多い民生機器の市場は2021年度以降、5G導入も相まって急速に拡大していくと見込まれています。
こうした市場規模の拡大に伴って、本記事で紹介した事例にとどまらずエッジAIは様々な分野で今後も成果を上げていくでしょう。
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