DXで活躍中のAI「IBM Watson」導入事例を解説
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近年、社会の急速な変化に対応する手段として、DX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されています。(DXについてくわしくはこちら(URL))特に、AI(人工知能)を活用したシステムを社内に導入することによって業務効率を改善し、社員のパフォーマンスを引き出す事例が増えています。今回は、数あるAIのうち、IBM Watson(ワトソン)を利用した活用事例をまとめました。
IBM Watsonとは?
ワトソンはアメリカの大手IT企業IBMが開発したAIを使った質問応答、意思決定支援サービスです。大量のデータを学習し、推論することで業務プロセスにおける意思決定をサポートします。
現在は、顧客対応や医療、教育、広告、研究開発など、幅広い分野で活用されています。無料プランも用意されており、個人でも利用可能です。
ワトソンの歴史について
ワトソンは2005年ごろ、IBMが創立100周年を迎える記念に、技術力を世界にアピールするプロジェクトとして開発が始まりました。研究チームは1997年にチェス世界王者を打ち破ったAI「ディープブルー」に影響され、クイズ番組に挑戦できるレベルの質問応答システムをつくろう、と考えました。開発は2006年から始まり、2007年には日本人を含む世界中のIBMの研究者が開発に加わりました。そして創立100周年となる2011年にアメリカの人気クイズ番組「Jeopardy!」に挑戦し、人間のクイズ王に勝利しました。これによりワトソンは世界中から注目を浴びるようになりました。その後は、質問応答システムを使って医療など他分野への応用を進め、2015年に開発者向けクラウドAIとして、2017年に非エンジニアも利用しやすいIBM Cloudとしてビジネス向けに提供が開始されました。
ワトソンができること
ワトソンは主に人間が話す言葉の分析(自然言語処理)を得意としています。音声の文字起こしや、テキストデータによる性格分析、感情分析が可能です。さまざまな言語に対応しており、其の中には日本語も含まれます。また、大量の画像データの処理による不良品検知や人物検知も可能です。
ワトソンが従来のコンピュータと違う点は、検索エンジンのように一致する正解を見つけるのではなく、探偵のように多くの断片的な情報から候補を絞り、可能性が高いものを捜すというところです。大量のデータを学習することで、人間には難しい複雑な状況判断を可能にします。ちなみに、「ワトソン」という名前はIBMの創立者であるトーマス・J・ワトソンが由来となっています。
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DXにおけるワトソンの活用事例
コールセンターの業務プロセス効率化 JR東日本
事例
ワトソンを利用した「お問い合わせセンター業務支援システム」をコールセンターに導入し、オペレータの1件当たりの対応時間を短縮
課題
JR東日本のコールセンターには電車の運賃や発車時刻、きっぷやSuicaなどのさまざまな種類の問い合わせが毎日数千件以上寄せられていました。迅速な対応のためには熟練のスキルが必要ですが、オペレータのレベルには個人差があり、対応速度、回答品質のばらつきが課題となっていました。
解決策
問い合わせの会話を音声認識でテキストに書き起こして解析を行い、リアルタイムでの回答に必要な情報をオペレータのモニターに表示します。さまざまな専門用語を登録して音声認識の精度を上昇させ、駅や路線情報、実証実験のフィードバックなどを学習させることで回答品質を向上させました。
効果
2018年4月に現場で導入され、システムの利用度が高いオペレータは問い合わせ1件当たり最大30%程度の応答時間を削減できました。これは、システム導入前の1日の対応件数を最大1.4倍増やしたことになります。
大量のテキストデータから必要な情報を抽出 デロイトトーマツコンサルティング合同会社
FTA(自由貿易協定)の文書から対象品目の情報を抽出するシステムを開発し、業務効率を大幅に改善
課題
FTAは国や地域ごとに存在し、関税を減らす上で重要な存在です。しかし、文書は複雑で膨大なため、プロのコンサルタントでさえ必要な情報を探すためには丸一日以上かかります。そのため、自社がFTAを活用できることを知らずに不要な関税の支払いが発生してしまうことが課題となっていました。
解決策
国際通商業務の専門家がワトソンの教師役となり、まずは日本の輸出入情報(テキストデータ)が掲載されたサイトから単語間の関係性を学習させ、文章がどのような意味を持つかを分析するモデルを開発しました。次に、サイトにある国や品目ごとの情報を分析させ、ユーザーが必要な情報を素早く簡単に調べられるシステムを開発しました。例えば、「豚肉 オーストラリア」と検索すると関連の規制や手続きの文章が表示されます。
効果
プロのコンサルタントでも丸一日かかる作業をわずか数十秒で行うことができるため、業務効率が大幅に改善されました。また、これまでの現場で得られた知見からワトソンにフィードバックを行い、学習を重ねることで精度を高めることも可能です。
30年分の知見を従業員が簡単に学べる
事例
従業員が現場で技術的な情報をすぐに利用できるシステム「Willow(ウィロー)」を導入し、スムーズな意思決定をサポート Woodside Energy
課題
オーストラリア最大の民間の石油・ガス会社であるWoodside Energyでは、天候や潮流、動物の移動パターンなど、様々な条件が整わなければ従業員が仕事を行うことができません。特に海洋上の作業には多くのリスクが存在し、慎重さが求められます。しかし、対象分野の知見をすぐに利用できる方法が存在せず、従業員が長年の記録から探し出すための調査に時間をかけなければならず、課題となっていました。
解決策
ワトソンに数十年分のプロジェクトの記録や機械のマニュアル、業務日報など人間が5年以上かけて読む量の文書を自然言語処理で学習させ、「Willow」を開発しました。Willowによって世界中の現場から従業員が専門的な知識にアクセスできるようになりました。
例えば、「プラットフォームに着陸可能なヘリコプターの最大重量は?」との音声での質問に対してすぐに回答が返ってきます。まるでGoogle AssistantやSiriのようですね。
効果
Willowの導入により、従来の事前調査にかかる時間が75%短縮されました。
まとめ
ワトソンの活用事例に共通して当てはまることは、「さまざまな分野の専門家のアドバイスを現場で簡単に利用できる」という点です。人間が扱えないほどの大量のテキストデータを短時間で学習し、分類、分析することで現場の意思決定をサポートすることができます。
知識継承、人材育成が課題になっている企業において、ワトソンは今後も活用されることが期待されています。ワトソンを利用することで従業員の負担が減り、よりよい成果を挙げることにつながるでしょう。
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