DX時代にSIerは不要?DX時代に求められる役割とは
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昨今、ユーザー企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む機運が一段と高まってきました。コロナ禍によって従来の対面でのマーケティング・営業活動や業務が制限されたことから、デジタルにシフトせざるを得ない状況となっているためです。
DX時代においてはITの内製化が本質であるため、ユーザー企業のDX化が進むと近い将来、ベンダー企業(SIer)は不要になると言われています。では、SIer不要論の状況を打破するためにSIerはどのようにすれば良いのでしょうか。本記事ではDX時代においてSIerが求められる役割についてご紹介します。
DX時代においてはITの内製化が本質
現代はVUCA(ブーカ)の時代とも呼ばれており、あらゆるものを取り巻く環境が目まぐるしく変化し、未来を予測することが困難な状況です。加えて、ビジネスの重心にも大きな変化が生じております。企業中心の時代は終わりを告げ、UX(ユーザーエクスペリエンス/顧客体験)が重要視されるユーザー中心の時代となりました。
一方で、ユーザーの価値観も変わり、モノを所有することよりも、サービスとして利用することに価値を見出すようになりました。これに伴って、ビジネスの重心はハードウェアからソフトウェアに、プロダクトからサービスにシフトしています。
プロダクトのサービス化は、あらゆる産業のユーザー企業が進めており、象徴的な例がトヨタ自動車です。同社の豊田章雄社長は2018年の年初、ラスベガスで開催されたCESというイベントで、同社を「自動車を製造する会社」から「モビリティカンパニー」に再定義し、今後は移動に関するあらゆる「サービス」を提供する会社になると宣言したことは記憶に新しいでしょう。
一方で、サービスの差別化のためにはユーザーに関するデータが必要となります。ユーザーの年齢、職業、居住地等のデモグラフィックデータに加えて、サービスの利用に関するデータ等をいかに網羅的に収集し分析した上で、サービスの改善に活かすかが、今後は競争力の源泉となります。
しかも、変化が激しい環境に対応するために、迅速かつ柔軟なサービスの改善が求められますが、ITを外注する旧来のやり方では、SIerとのコミュニケーションに時間が掛かってしまい、また、SIerは自社が得意とするシステムを売り込むため柔軟性にも欠けてしまいます。
上記から、ITの活用自体が競争力の源泉となり、また、サービスの改善を迅速かつ柔軟に行うためには、ユーザー企業にとってITの内製化が本質であると言えます。
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ユーザー企業のIT内製化の課題
しかし、本当にユーザー企業のITの内製化は進むのでしょうか。まずは山積しているIT内製化の課題をご紹介します。
SIer丸投げの結果、出来上った歪な構造
日本では終身雇用制度によってユーザー企業がITエンジニアの需要変動に柔軟に対応できなかったため、SIerがその調整弁として需要に応じた受託開発を請け負ってきました。ユーザー企業は自社でIT人材を抱えられなかったため、SIerにITを丸投げしてきました。
その結果、ノウハウがユーザー側ではなく、SIer側に蓄積していくという歪な構造が出来上がったのです。
ボトルネックとなっているレガシーシステム
レガシーシステムを「技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化等の問題があり、その結果として経営・事業戦略上の足かせ、高コスト構造の原因となっているシステム」と、経済産業省(経産省)は定義しています。
同省のデジタルトランスフォーメーション研究会がまとめたレポートによりますと、約8割のユーザー企業がレガシーシステムを抱えており、その内の約7割がレガシーシステムがDXの足かせとなっていると回答しています。SIerにITを丸投げしてきたつけが回ってきたということです。
(出典:2018年9月7日付けDXに向けた研究会作成「DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜」)
ITリテラシーの低さ
加えて、下記等の理由のため、日本は諸外国に比べてITリテラシーが低いと言われています。
- 社内にIT人材がいない
- ITに関するノウハウがユーザー企業に蓄積されない歪な構造
- レガシーシステムがボトルネックとなり、最新のITシステムを導入しにくい状況
ユーザー企業のIT内製化への追い風、今後はIT内製化が加速していく
一方で、SaaS(Software as a Service/ソフトウェア・アズ・ア・サービス)やローコード・ノーコード等の台頭する新しいテクノロジーが、コロナ禍による追い風を受けて急速に広まっています。
パラダイムシフトが起きていると言っても過言ではなく、この状況下、ユーザー企業のIT内製化は加速していくと考えられます。
台頭する新しいテクノロジー
SaaSはITシステムをサービスとして提供するという考えです。オンプレミスと比較して導入が速く、また、サブスクリプション(従量制料金)方式で基本的には月額課金のため、コストの観点から導入ハードルが低いことから急速に広まりました。
中でもSaaSの代表的な企業であるAmazon Web Serviceが提供する安価かつ柔軟なクラウドストレージの登場によってクラウド化も促進されました。
また、最近ではプログラミング言語の知識不要でGUIベースでソフトウェアを開発できる「ノーコード」、比較的な簡単なプログラミング言語で開発できる「ローコード」のサービスが沸騰しています。直近では、ローコードの代表的な企業であるヤプリが2020年12月に東証マザーズへ上場しました。
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コロナ禍による追い風
上述したSaaSやノーコード・ローコードのサービスは以前からありましたが、コロナ禍が導入の追い風となりました。
一般液に日本は米国に比べて利用しているITが10年〜15年古いと言われますが、一方で、2020年7月17日に閣議決定された「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」に関する変更の中で、ニューノーマルに向けて通常10年かかると想定されていた変革を一気に進めることを提言していることから、ユーザー企業のIT内製化は想像を超える速さで行われることになるでしょう。
SIerに求められる役割、将来的な協業を見据えたPoCパートナー
SIerはユーザー企業のIT内製化が完了した後の世界を見据えて、単に要件を聞いて実装するだけの受託体質から脱却し、短期的にはユーザー企業のDXニーズを検知した際にまずはDXの知見を持つPoCパートナーとして協働でき、さらに長期的には事業者サイドにも踏み込めるナレッジを獲得していく必要があります。
ユーザー企業とSIerの協業案件の先行例として、日本航空(JAL)と野村総合研究所(NRI)が共同開発した「どこかにマイル」のサービスをご紹介します。同2社は新サービスの創出を目的として、2019年2月に共同出資会社であるJALデジタルエクスペリエンスを設立し、「どこかにマイル」というマイルに応じて行き先を自動提案するサービスを共同開発しました。
NRIがJALと組むことができた決め手は、同社がデータ・アナリティクスやAI(人工知能)等のノウハウを有しており、それらをJALの顧客データに活用することでシナジーを発揮できるためです。
ユーザー企業のIT内製化は会社規模によらずに全ての業界で加速していくため、全てのSIerが、SIer不要論を打破するために、ユーザー企業のパートナーとしての役割を果たすことが求められます。直近で、ユーザー企業におけるDXのPoCパートナーとして協働するためには、自社のDX人材の育成が急務となります。
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