DX投資促進税制とは?認定要件や利用時の注意点について解説
令和3年度の税制改正の目玉となった「DX投資促進税制」ですが、税制措置の内容や認定要件について気になる方も多いことでしょう。適用される設備や適用期間に決まりがあるため、DX投資促進税制の利用を検討される方はご一読いただければと思います。
DX投資促進税制とは?
DX投資促進税制とは、令和3年度の税制改正で可決・創設されたDX推進を後押しする税制です。DXは日本企業の国際的な競争力の強化を目的に政府により推進され、国内市場でもDX推進の一環として新しいビジネスモデルを取り入れる企業が増えています。2022年2月現在、DXの必要性は業界問わず叫ばれている状態であり、引き続きDXは推奨されていくことでしょう。
多くの日本企業がDXを推進するようになったのは、2018年9月に経産省から発表された「DXレポート」がきっかけです。DXレポートの内容は、様々な業界でデジタル技術を活用した新しいビジネスモデルが登場するなか、レガシーとなったシステムを用い、従来の商習慣を続ける企業に向けて、政府が「デジタル競争の敗者になる」と警鐘を鳴らした報告書となります。このDXレポートの発表を境に、日本企業の多くが①放置してきたレガシーシステム刷新の問題に加え、②デジタル技術を活用したデータマーケティングを行うための経営改革の問題に直面しています。
このようにDXレポートの発表によって表面化した様々な問題は、散発的な施策の実施・意識変革だけでは解消できず、経営戦略の根幹から見直す必要がある問題として今日の企業の前に立ちはだかっています。具体的には①アイデアの壁、②投資判断の壁、③技術開発の壁、の3つに大別されますが、多くの日本企業が超えられない壁が「投資判断の壁」と「技術開発の壁」の2つです。いずれの壁も資金面での課題を克服できないために超えられない壁となっていますが、今回のDX投資促進税制の活用によって突破できる企業が出てくる可能性があります。
今さら聞けないDXレポートとは?
「DXレポート」は企業の経営層に向けて、変化の激しい市場環境を生き抜くためのアドバイスとして発表されたと解釈できます。DXレポートの内容には、主に①今日の日本企業が抱える課題、②今後とるべき経営対策が記載されており、市場環境を俯瞰して眺めるための様々なデータが登場します。DXレポートが2018年9月に経産省から発表される前から、市場にはデジタル技術を活用した新規参入企業や、新しいビジネスモデルを展開する企業が登場していました。以前から業界で影響力を持っていた企業もこうしたIT化の影響を受けていましたが、企業全体の取り組みとしてDXを推進することはなかったといえるでしょう。この点でDXレポートの発表は企業の経営層に向けた経営アドバイスの1つだったと振り替えることができます。
またDXレポートは2020年12月に「DXレポート2」として更新され、主にコロナ禍によって表出した「DXの本質」について語られた内容となっています。2018年のDXレポートの発表によって一斉にスタートを切ったと思われた企業のDX推進ですが、実際にはレガシーシステム刷新の問題に答えが出せず、DXを力強く推進するための体制構築に時間がかかっている企業が多く見られました。いわゆるDX途上企業が多く存在する状況となってしまっていますが、こうした状況を生み出した要因の1つに「企業文化変革の問題」があります。端的に説明すると、「DX=レガシーシステムの刷新」と解釈した企業でDXの取り組みが散発的な施策として一段落し、DX本来の目的である新しいビジネスモデルの創出や、それにともなう新しい顧客体験の提供を生み出すための「企業文化変革の問題」に踏み込めていない企業が多く見られたのです。企業のDX推進が散発的な施策に終わってしまう背景には、こうした企業経営層のDXに対する理解のズレと、先述した3つの壁があったと推測できます。
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DX投資促進税制の認定要件
DXの本質を理解し、また企業がDXを力強く推進するための促進剤としてDX投資促進税制は設置されました。以下ではDX投資促進税制の認定要件である「デジタル要件」と「企業変革要件」について解説していきます。
デジタル要件
DX投資促進税制における「デジタル要件」には以下の3つの要素が設定されています。
- データ連携・共有
- クラウド技術の活用
- 「DX認定」の取得
デジタル要件(以下、D要件)のポイントは2つあります。1つ目はクラウド技術の活用に加え、「グループ内外の事業者・個人の有するデータ」もしくは「センサー等を利用して新たに取得するデータ」と連携し、有効に利活用することを定量的な指標として提示することです。
定量的な指標例には、「①新商品、新サービスの生産・提供」として「投資額に対する新商品等の収益の割合が10倍以上」、「②商品の新生産方式の導入、設備の能率の向上」として「商品等1単位当たりの製造原価等を8.8%以上削減」、「③商品の新販売方式の導入、サービスの新提供方式の導入」として「商品等1単位当たりの販売費等を8.8%以上削減」などが挙げられます。
そして2つ目は情報処理推進機構(IPA)が審査する「DX認定」の取得です。DX認定制度は国が策定した指針を踏まえ、優良な取り組みを行う事業者を申請に基づいて認定します。DX認定制度の詳細はこちらのページをご覧ください。
企業変革要件
またDX投資促進税制における「企業変革要件」には以下2つの要素が設定されています。
- 全社の意志決定に基づくものである
- 一定以上の生産性向上が見込まれる
先述したDXレポート2の内容を反映した要件になります。とりわけ「全社の意志決定に基づくものである」では取締役会等の決議文書添付等が必要であり、企業文化の変革に向けた合意が取れていることがポイントとなるでしょう。またD要件の「データ連係・共有」「クラウド技術の活用」と関連して、一定以上の生産性向上が見込まれるDX計画を策定する必要があることにも注意が必要です。
税制措置の内容
対象資産 |
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控除金額
の基準 |
(300億円を上回る投資の場合、300億円まで) |
控除金額 | 【税額控除の場合】
(グループ外の他法人ともデータ連携・共有する場合) |
【特別償却の場合】
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またDX投資税制措置の適用期限は2023年3月31日(令和4年度末)までとなっています。
DX投資促進税制手続きの流れと期間
実際にDX投資促進税制を利用する場合、顧問税理士への相談等が必要となりますが、事前相談から適用要件を満たすまでの期間を鑑み、6ヶ月以上の期間が必要になると考えておくと良いでしょう。まずは現状で要件に合致するかどうか、計画の申請・審査に約1~2ヶ月かかります。そして同時並行する課税特例への適合確認・申請にも1~2ヶ月程度かかると想定しましょう。仮にDX認定を所得していない場合は追加で期間が必要となるため、手続きから実際の適用までは6ヶ月以上を想定しておくのが妥当といえます。
DX投資促進税制のよくあるQ&A
DX投資促進税制のよくあるQ&Aを以下にて紹介します。より多くのQ&Aはこちらのページからご覧いただけます。
Q1. DX投資促進税制の適用を受けるためにすべきことは何か?
DX推進に必要な設備投資等を目的とした税制のため、①事業計画書の作成、主務大臣の認定等を受ける必要があります。また取り組み内容が属する事業分野を所管する省庁まで個別に相談する必要があります。
Q2. DX投資促進税制に係る課税の特例の確認はどのようにして受けられるか?
事業適応計画の認定申請と併せて行うことが可能であるため、事業適応計画の認定申請と同様にオンラインで申請できます。
Q3. DX認定はどうすれば取得できるか?また親会社が取得していれば申請者の子会社は取得しなくてもよいか?
DX認定は情報処理推進機構(IPA)が審査するDX認定制度にて取得可能です。またDX認定は申請者である子会社が取得する必要があります。
Q4. 既にDX投資を行っているが、投資完了前の店舗は新たに対象となるか?
既存のDXの取り組みはDX投資促進税制における「前向きな取組」に該当しないため、投資対象外となります。
DX関連の補助金は他にある?
DX関連の補助金には「IT導入補助金」があります。IT導入補助金とは、中小企業や小規模事業者が生産性向上を目的としてITツールを導入する場合、その経費の一部を国が補助する補助金制度です。DXを推進するにあたって必要なIT設備投資にも利用できる補助金のため、積極的に活用していくと良いでしょう。2022年分(令和4年分)の概要も公表されていますので、気になる方はこちらのページからご覧ください。
まとめ
DX投資促進税制の認定要件は、DXレポート2の内容も踏まえたD要件とX要件によって設定されています。DX推進に出遅れている企業はDX本来の目的を達成するために、税制や補助金を効果的に活用したDX推進計画を立てましょう。