【量子コンピューティングのビジネス活用事例】情報処理を革新する量子コンピューターの概要と現在地
量子コンピューティングとは?
量子コンピューティングの原理について
量子コンピューティングで使用される量子コンピューターは、従来のコンピューターとは異なる性質を持ちます。
従来のコンピューターは古典力学に基づいて作られてきたものですが、量子コンピューターは、量子力学というミクロの世界の物理現象を記述するための物理法則に基づいて作られています。
そのため、量子コンピューティングの仕組みを完全に理解するためには、量子力学・物理法則の知識が必要になります。本記事では量子コンピューティングの概要や事例について知ることや、ビジネス活用の方向性をイメージすることを目的とし、ここでは概要と事例をご紹介します。
従来のコンピューターと量子コンピューターの違いとして大きく以下の3つが挙げられます。
-
量子重ね合わせ
-
量子もつれ(エンタングルメント)
-
量子トンネル
ひとつずつ見ていきましょう。
量子重ね合わせ
量子コンピューティングの最も特徴的な性質は、従来コンピュータでは不可能な0と1の重ね合わせの計算ができることです。
従来のコンピューターでは、0もしくは1の組み合わせたビットによって情報を処理していました。しかし、量子コンピューターでは、0でも1でもないあいまいな状態で存在できる量子ビット(キュービット)によって情報処理を行います(詳細な説明は省きますが、量子ビットは観測された時点で、0か1のどちらかの状態に収束され、従来のコンピューターと同じように処理できます)。
量子ビット状態で計算を行うことで、これまで順番に行わないといけなかった計算を一度に行うことができます。そのため、これまで実現できなかったスピードや情報量を取り扱うことが可能となります。
量子もつれ
量子もつれとは、一つの量子状態が別の量子状態に依存する現象のことで、これはエンタングルメント状態とも呼ばれます。
古典力学では「距離が大きくなるにつれ相互作用の力が小さくなる」とされていますが、量子力学では距離に関係なく相互作用の力が働きます。
これは重要な量子力学特性となります。
量子トンネル
古典力学では超えられない領域を通り抜ける現象です。
古典力学では山を乗り越えるのに必要なエネルギーがない限り山の向こう側には到達できませんが、量子力学ではエネルギーの山を通り抜けてエネルギーの低い谷に瞬間移動できるとされています。
トンネルをすり抜けたような現象なので、量子トンネルと呼ばれています。これは、特徴の1つ目、量子重ね合わせの概念から実現されます。
量子コンピューティングの分類
量子コンピューティングは、ゲート方式とアニーリング方式の2つの方式に主に分類できます。
計算や暗号処理を高速で実行する量子ゲート方式とは
量子ゲート方式は長い研究開発の歴史を持ち、古典コンピューターの上位互換にあたるような汎用型のマシンです。様々な問題を量子アルゴリズムを用いることで解ける万能機械であり、指数関数的な計算速度の向上が見込まれています。
ただ、実用化に至るまでは5〜20年程必要と言われています。主に暗号解読、量子シミュレーション、機械学習に活用されることが想定されます。
量子計算とは、量子ビットに対して量子ゲートと呼ばれる論理演算を行うものです。量子ゲートは量子コンピュータ特有の演算であり、決められたルールに従って計算することで古典では計算時間がかかる問題を高速に解くことが期待されています。
量子ゲートを連続で行うことで、量子アルゴリズムを作ることができます。暗号解読や検索システムなどを古典コンピュータよりも高速に解くためのアルゴリズムが日々開発されています。
最適な組み合わせを導く際に使用される量子アニーリング方式とは
量子アニーリング方式は、膨大な選択肢から最適な組み合わせを選び出す問題を解くことに特化しており、すでに物流や創薬などの幅広い分野で着々とビジネスへの応用が進み、国内各社の事例が出始めています。
アニーリングは焼きなましという意味で、刃の製造などで金属を熱した後にゆっくり冷やして内部のひずみを取り除いて組織を均質化する手法を指します。
量子アニーリング方式も同様にして、最初は多くの状態を重ね合わせることで揺らぎを大きくしますが、次第に揺らぎを小さくすることで、最適な組み合わせ・状態を見つけます。
量子コンピューティングの歴史と最新の動向について
量子コンピューティングの歴史
量子コンピュータは、1980年代に科学計算の用途で考案され、主に原理的に従来の計算機では難しいと言われていた分野を計算することが期待されていました。
しかし、技術的にも理論的にも難解なため、広い実用化はまだされていません。
一方で、暗号解読や量子化学シミュレーションなどの理論が日々考案されており、大きな期待が寄せられています。
2012年にカナダのD-wave社が商用化した量子アニーリング方式のマシンは従来の量子ゲート方式とは異なるものでしたが、その動作原理の一部に量子効果があると話題になりました。
2015年にGoogleとNASAが共同で量子アニーリング方式を使用して、量子アニーリングマシンが有利になるように設定をした問題ではあるものの、古典コンピュータよりも1億倍高速で解けたことが全世界で大きな話題となりました。
そのため、量子アニーリング方式だけでなく量子ゲート方式の開発競争も再燃しています。
量子コンピューティングの最新動向
量子コンピュータは動作が外部環境に左右され不安定であるため、現在は開発各社が量子コンピュータを研究室に配置したまま、誰でも量子コンピュータをクラウド上で使用できる環境を提供しています。
量子コンピュータ関連の研究開発が急速に進み、全世界で多くの企業が採用していますが、収益の向上に貢献するにはまだ10年以上必要だと言われています。
南カリフォルニア大学の研究グループが、量子アニーリングマシンに有利な設定をしていない最適化問題において、量子アニーリングマシンが古典コンピュータよりも最大約1000倍速く解いたと発表しました。アニーリング方式のマシンもゲート方式と同様に汎用型マシンになるかもしれないと期待されています。
量子ゲート方式は主に米国や中国で大幅に投資が進み、特に機械学習などの既存技術と組み合わせられ、大きな産業へと発展しています。
暗号分野においても世界的に大きく発展しており、量子コンピュータにより将来解かれると言われている公開鍵暗号方式などで耐量子コンピュータ暗号が開発されています。
ビジネスにおける量子コンピューティングの活用事例
ごみ収集の現場での量子コンピューティングの活用
(参照元:【三菱地所とグルーヴノーツ】AIや量子コンピュータを活用した廃棄物収集の運搬業務・経路の最適化検証で、CO2排出量削減の可能性を確認)
事例
株式会社グルーヴノーツは三菱地所株式会社と連携して、AIや量子コンピュータを活用し、み収集の現場では廃棄物を収集運搬するルートを最適化しました。課題
ごみ収集の現場では、長時間労働の削減や人手不足の解消が求められていました。
解決策
AIやアニーリング方式の量子コンピュータを搭載した世界唯一のクラウドプラットフォーム「MAGELLAZ BLOCKS」を開発し、あるエリア内で廃棄物を収集運搬するルートを最適化しました。
効果
従来よりも、総走行距離が57%減少し、それに伴いCO2の排出量も削減されました。収集車台数も59%削減され、総作業時間も38%短縮されました。
(参考:【三菱地所とグルーヴノーツ】AIや量子コンピュータを活用した廃棄物収集の運搬業務・経路の最適化検証で、CO2排出量削減の可能性を確認)
工場での量子コンピューティングの活用
事例
デンソーは、量子アニーリングを用いて、工場内で部品などを運ぶ無人搬送車(AGV)の配送効率を高める技術を発表しました。
課題
AGVは事前に定められた配送ルートを動くよう設定されていますが、AGV同士が近づくと、衝突を避けるために停止し、渋滞を引き起こしてしまうことが課題でした。
解決策
ディーウェーブ システムズ(D-Wave Systems)の量子アニーリングコンピューターを活用して、全体の効率が向上するように、AGVの速度やルートなどをリアルタイムで最適化し続けました。
効果
既存の手法ではAGVの稼働率が80%でしたが、新技術では95%を実現し、稼働率が15%も上がりました。これにより、工場内での渋滞がかなり減りました。
(参考:東北大・デンソー、量子アニーリングでAGVを効率配送)
関連:【AI導入事例】食品加工業界におけるコストダウンに繋がるAI活用事例
情報サイトでの量子コンピューティングの活用
(参照元:ホテル予約サイトの検索でも利用中 量子アニーリングの現状と活用例)
事例
リクルートは、量子アニーリングマシンを活用して、旅行情報サイト「じゃらんネット」における宿泊施設の表示順序を最適化しました。
課題
従来は、利用頻度が高い順に宿泊施設が表示されていましたが、特定の地域や類似したタイプの宿泊施設に偏りがちでした。最初の検索結果の内容が気に入らず、別のサイトに移ってしまう人が多いことが課題でした。地域や施設の種類なども加味すると、膨大な組み合わせの中から解答を探し出す必要があり、計算式が複雑になるため、既存のコンピューターでは時間がかかってしまうことが課題でした。
解決策
アニーリング方式の量子コンピューターで計算したところ、特定の地域や宿泊施設のタイプに偏らない検索結果を表示できました。
効果
従来の手法と比較するためにユーザーにABテストを実施したところ、量子アニーリングマシンを活用した方が売り上げが1%ほど高くなる結果が出ました。
(参考:ホテル予約サイトの検索でも利用中 量子アニーリングの現状と活用例)
まとめ
アニーリング方式の量子コンピューティングはすでに実用化が進められていますが、主に組み合わせ最適化専用機としての利用されています。
万能機械であるゲート方式の量子コンピューティングは実用化にはまだ長い年月がかかると言われていますが、将来的には計算速度が指数関数的に向上され、暗号解読や機械学習などの多くの産業で活用されることが見込まれます。
これらの発展は古典コンピュータとは一線を画すものだと考えられ、量子コンピュータが完成するとこれまでにない産業革命が起こると想定されます。
実際にビジネスに活用する事例も生まれ始めているため、本記事が自社のビジネスに活かす方法を考えるきっかけになれば幸いです。
実践にいかせるDX人材育成講座をお探しの方へ
DX推進をするにあたり、社内のDXリテラシー教育は避けては通れない道です。
・人材育成はその効果が図りづらく、投資判断がしづらい
・講座を受講させたいが、対象者が忙しく勉強をする時間がとりづらい
などのお悩みを解決する、
受講開始から最短1日で受講完了でき、受講内容を踏まえたアウトプットが得られる「DXリテラシー講座」をご用意しました。
DXリテラシー講座詳細につきましてはダウンロード資料よりご確認ください。
以下リンクよりフォーム入力ですぐにダウンロードいただけます。