【化学業界でのデジタル技術活用事例】MIやRPAによる収益率と生産性改善
化学業界について
化学業界は現代の日本の発展には欠かせない業界のひとつです。
化学業界の出荷額は40兆円と全製造業の約14%にもなる一大産業となっています。化学製品は自動車や液晶ディスプレイ、食品フィルムなど私達の生活に欠かせない製品を作り上げる材料となっており、化学産業がなければ他の産業は発達していかないと考えられるほど、大事な産業と言えるでしょう。
また、化学業界は世界的な競争が激しい業界です。欧米を始めとした各メーカーは事業領域特化型M&Aなどを行い、事業の強化、利益の拡大などを図っています。さらに中国や韓国などの新興国と言われる国でも基礎研究が進められています。製品を最初に開発すれば、世界のシェアを一気に取ることも可能なので、競争は熾烈を極めています。
また、研究開発を加速させる観点では、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の活用が化学業界では広まっています。マテリアルズ・インフォマティクスは機械学習を通じて、新素材の開発をスピーディーに行うというものです。
このように新たな技術を活用しながら、従来のスピードとは比較できない速さで商品開発することが化学業界では求められています。
関連記事:RPA導入で得られる効果とは?導入に適した企業やこれからのRPA人材育成に迫る
化学業界の課題
素早いビジネス展開が求められている化学業界において、大きな課題は下記の2つです。
①収益の確保と収益率の改善
②MIなどの活用による生産性アップ
化学業界の課題①:収益の確保と収益率の改善
経済産業省によれば日本の化学メーカーは海外企業と比較して収益率が低いとされています。ドイツの化学品メーカーBASFの収益率は14%であるのに対し、日本のメーカーの収益率は約5%と大差を付けられています。
収益率が低いと、設備投資や研究開発費などに回すお金が減少してしまい、競争力を保つことができません。
経済産業省の「日本の産業部門の技術開発を巡る状況」の調査でも、日本企業の研究開発費の伸び率は海外と比較して低い水準になっていることが分かっています。低い研究開発費の伸びが売上高の低迷につながっている可能性があるとしています。
設備投資や研究開発費を十分に確保するためにも、収益の確保と収益率の改善が求められています。
化学業界の課題②:化学製品開発の生産性アップ
化学製品開発の生産性向上も大きな課題です。
そのひとつの手法として昼盲されているのが、前述のマテリアルズ・インフォマティクスです。MIを活用することで、新素材の開発スピードを高めることが見込まれています。その効果はすでに高い評価を得ており、マテリアルズ・インフォマティクスは将来的に一般化されると予想されています。
日本では経済産業省を中心に「マテリアルで新しい価値と産業を生み出し、世界に貢献できる国」を将来像として挙げており、国としても化学製品の開発は重要なテーマーとなっています。
さらに「RPA(Robotic Process Automation)」を推進することによって研究開発に関する作業を効率化させることも注目されています。RPAの活用は生産性アップにとどまらず、近い将来の人手不足解消に向けても有効とされています。
こうしたMIやRPAなどのデジタル技術をうまく商品開発やビジネスプロセスに組み込むことによる、さらなる生産性アップが求められています。
化学業界のデジタル技術活用事例
化学業界でもデジタル技術の活用は少しずつ浸透しています。
本項目では化学業界のデジタル技術の活用事例として3つ紹介します。
MI(マテリアルズ・インフォマティクス)による研究開発の効率化
化学業界での新素材開発は、これまで研究者の経験に頼ってきた側面が大きかったのですが、近年はデータに基づいて開発を進めていく手法に切り替わっています。
そのデータを有効的に活用して開発を進める手法がMI(マテリアルズ・インフォマティクス)です。MIの活用によって新素材開発の効率化・高速化が実現に向かいます。
事例
住友化学株式会社の材料開発事例
課題
製品のライフサイクルが短くなってきたのに加え、顧客の要求も細分化されて高度になってきていました。そのため「実験至上主義」的な開発方法ではニーズに答えることができていませんでした。
解決策
実験至上主義からMIを活用して、材料の物性と構造のデータを全て組み合わせます。組み合わせたデータを分析や解析を行い、最適解を導き出します。
効果
耐熱性ポリマー(共重合体)の開発時に量比の組み合わせが100万通りありましたが、「ベイズ最適化(Bayesian optimization)」を使ったMIを導入した結果、実験回数が20回で最適な組み合わせを発見することに成功しました。
発見した組み合わせは研究者が考えていなかった配合だったため、MIの実用性を証明することになりました。
業務の効率化を図るRPAの実践
膨大な事務処理に仕事の時間を割いている人も少なくありません。しかし事務処理の多くは反復作業のため、RPAによって自動化が可能です。
RPAとは従来手作業で行なっていたデータ入力や転記、決まった時間のメール配信などをソフトウェアによって自動化するものです。RPAは多くの業界で導入されており、化学業界でもバックオフィスの業務効率化を図るために導入されています。
事例
帝人株式会社の経理・財務、人事・総務の17業務でRPAの導入した事例
課題
取引先コードの改変を申請する窓口業務にはマニュアルがなく、作業品質にバラツキが多く作業負担となっていました。
他にも生産性向上のために、労働時間管理に関するメール配信、滞留債権の入金消込処理などの単純作業は自動化したいと考えていました。
解決策
RPAを導入し、作業をロボットによる自動化させることで、作業品質の向上に加え、作業負担の軽減を目指しました。
さらに社内で業務を洗い出し、17の業務でRPAを導入して生産性向上を目指しました。
効果
RPAの導入後、取引先コードの改変の作業品質が向上したことに加え、工数が月60時間から12時間と80%削減を達成しましたた。さらに作業者の「ミスしてはならない」という心理的ストレスからの解放にも繋がったそうです。
17の業務のRPA化によって見込まれる作業削減時間は年間3,000時間以上と予測されており、社内での評判も上々とのことです。
今後は300もの業務にRPAを導入して約10万時間相当の業務をロボットに担当させたいとしています。
参考:全社レベルでRPA化を推進し働き方そのものを変えていく
実験室の自動化
研究開発の実験には多くの工数がかかります。容器に物質を入れ、容量を変え、実験を行い、データを取るというものです。
研究開発は始めてすぐに望んだ結果が得られるわけではありません。研究開発者の地道な作業積み重ねによって良い結果が初めて得られます。ただ、これらの作業自体は少しずつ条件を変えていくだけのものであり、そこにかかる研究者の負荷や時間は縮減したいと考えられています。
事例
英リバプール大学の研究チームが開発した自動実験ロボット 「A mobile robotic chemist」での実験事例
課題
人間よりも早く正確に実験を行うことで、作業効率化を図りました。また、AIを導入することで、実験結果から次にどのように容量や環境を変えるべきかを、人間がいなくても判断できるようにすることでさらなる効率化を図りたいと考えていました。
解決策
研究室を動き回り、実験タスクを自動で行うロボットを配備しました。
効果
「A mobile robotic chemist」は1日21.5時間動作を続けることが可能で、水素を効率的に生成する実験では8日間で172時間の動作を行い、688回の実験を行うことに成功しました。
人が同様の回数の実験を行うには数ヶ月かかるとされており、作業の効率化が実証されました。また実験データは逐次更新され、実験結果に基づいて次に行う最適な実験を決定することも可能です。
参考:自律的に化学実験するロボット科学者、研究の自動化に成功 8日間で約700回の実験、人間なら数カ月
参考:Cover Story:ロボット化学者:実験化学の自律的手法
まとめ
化学業界は研究開発のサイクルが高速化しているため、MIやRPAなどの導入は必須と言っていい業界です。従来の研究者の経験頼りではなく、過去のデータに基づいてより可能性の高い研究開発を推進するためのデータ活用も求められています。
現在も大きな役割を担っている化学業界ですが、研究者や技術者が割くべきところに時間を割くことができれば、さらなる急速な発展が期待されます。化学業界で開発された素材は、他の業界で活用されることで、他の業界の発展にも繋がります。
社会のさらなる発展のためにも、化学業界へのデジタル技術の利活用の動向から目が離せません。
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