「ダイナミック・ケイパビリティ」の概要を成功事例とともにわかりやすく徹底解説 !
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2020年に新型コロナウイルスの感染拡大など、日々の経営環境は何が起こるかわからない時代です。そのような中で、企業が競争力を維持し、どんな環境でも生き残るために必要となる能力が、「ダイナミック・ケイパビリティ」。この記事では、ダイナミック・ケイパビリティについての概要や、ダイナミック・ケイパビリティが求められる背景、ダイナミック・ケイパビリティによる日本企業の成功例などを詳しくご紹介していきます。
また、ダイナミック・ケイパビリティの実現を強力に後押ししてくれる、DX推進の重要性についても解説しています。記事を読むことで、DXの知識やノウハウを持った人材の確保など、変化し続ける現代で企業が生き抜くための重要なポイントも理解できるので、ぜひ貴社の経営戦略の参考にしてみてください。
ダイナミック・ケイパビリティとは「企業変革力」
ダイナミック・ケイパビリティとは、「企業変革力」とも呼ばれる概念で、「環境や状況の変化に応じて、企業内外の資源を再構成して、自己を変革する」(※)能力のことを指します。ダイナミック・ケイパビリティの概念が生まれた背景としては、環境や状況が予測困難なほど激しく変化する現代社会において、企業が持続的な競争力を維持するためにどうしたら良いのかという問題意識があります。
経済産業省と厚生労働省、文部科学省の3省によって毎年共同発表される、日本のものづくりの動向をとりまとめた報告書で、2020年に発表された「ものづくり白書」において、ダイナミック・ケイパビリティは、「日本の製造業の課題を考えるにあたって注目すべき戦略経営論」と位置付けられ、スポットライトがあてられるようになりました。
(※)出典:ものづくり基盤技術の振興施策(ものづくり白書2020)
ダイナミック・ケイパビリティの3つの要素
ダイナミック・ケイパビリティを提唱している、カリフォルニア大学バークレー校教授のデイヴィット・J・ティース氏は、「環境変化を感知(Sensing)し、そこに機会を捕捉して(seizing)、既存の資源を再構成し自己変容(transforming)する能力」のことを「ダイナミック・ケイパビリティ」と呼び、現代企業に求められている能力であると解説しています。
ここでは、ダイナミック・ケイパビリティを構成する以下の3つの要素について、それぞれ詳しく説明していきます。
- 感知(Sensing:センシング)
- 捕捉(Seizing:シージング)
- 変革(Transforming:トランスフォーミング)
①感知:経営環境や脅威を的確に把握する能力
「感知(Sensing:センシング)」とは、日々変化する経営環境を観察し、そこに潜む脅威や危機を的確に把握する能力のことを指します。企業をとりまく環境は常に変化しているため、できるだけ迅速に環境の変化を感知することで、危機を回避して新しい機会を見いだし、企業を再構成して自己変革を可能にします。
②捕捉:企業内の資源を再構成するための的確な機会を捉える能力
「捕捉(Seizing:シージング)」とは、企業が競争力を維持、獲得するために、どのタイミングで、どう自己変革を行っていくのかという適切な機会を捉える能力のことを指します。機会を的確に捉える「捕捉」を高めるには、常に変化している経営環境を観察し、脅威や危機を把握する「感知」の能力を高めていくことも求められます。
③変革:企業内の資源を状況に応じて変容する能力
「変革(Transforming:トランスフォーミング)」とは、不確定な時代の中で企業の競争力を獲得し続けるために、組織内外にすでにある資産や知識、技術などを再構成して、自己変容する能力のことを指します。
既存の資源を再構成して企業が変容していくには、多大な労力やコストも伴いますが、これをしないことによる損失があることを認識して、損失以上の利益を生み出すような資源の再構成、再配置、再利用を行っていくことが求められます。
ダイナミック・ケイパビリティが求められる背景
ここからは、なぜこの時代にダイナミック・ケイパビリティが求められるのか、その背景を解説していきます。企業がダイナミック・ケイパビリティを無視できない理由ともいえるので、この必要性がまだよくわからないという方は、ぜひ確認してみてください。
コロナウイルスの流行
2020年から発生し感染が拡大した新型コロナウイルスの存在は、まさに先が読めない不確実な時代に立ちはだかった危機の一つでした。これによって変化したことは多く、例えば、対面によるサービスや商品よりもオンラインのものの需要が増えたり、企業ではリモートワークへの急速な対応を迫られたり、それによって体制やシステムなどの大きな変更が求められたりと、経営環境は大きく変わりました。
あきらかに、コロナ禍前の企業経営のやり方では立ちゆかなくなるという現状に直面し、企業は既存の資源をどのように再構成、再利用していくのか、思い切った経営変革が求められています。
顧客のニーズや市場の変化
商品やサービスがある程度行き渡った現代は、市場が飽和化し、消費者は経済への先行き不安を抱えるなど、なかなかものが売れない現状があります。この変化に対して企業が生き残っていくには、今持っている技術を新しい商品やサービスの開発に転用するなど、思い切った自己変革が必要となってきます。
さらに、基本的な需要が満たされると顧客のニーズは多様化し、加えて、SNSで思わぬものがバズって売れたり、スマートフォンの普及によって情報量が増加し購買の比較対象が増えたりなど、企業側にとって顧客ニーズを把握するのは簡単ではなくなっています。ダイナミック・ケイパビリティを発揮しないで現状維持をする方が、損失は大きくなる可能性も大いにあるでしょう。
グローバル市場での競争
海外市場へ進出するなどグローバル化の進行によって、国内企業は、その何倍もの規模を持つような外国の同業他社との競争にさらされるようになってきました。グローバル市場での激しい企業競争の中で国内企業が生き残っていくためには、企業がすでに持っている経営資源を、適切な機会に再構築、再利用し自己変容していくダイナミック・ケイパビリティの実現が求められます。
こうした自己変容には多大なコストを伴いがちですが、やり方次第では、変容前よりも大きな利益を生み出す機会にすることも可能です。グローバル市場での激化する競争で勝ち進んでいくためには、ダイナミック・ケイパビリティの実現が重要となっています。
ダイナミック・ケイパビリティを実現した日本企業の成功事例
実際にダイナミック・ケイパビリティを実現するとはどういうことなのか、ピンと来ない方もいるでしょう。ここでは、日本企業の成功事例を3つ挙げて、具体的なダイナミック・ケイパビリティの活用について解説していきます。
ユニメイト
オフィスや、飲食店、医療現場などで使用されるユニフォームのレンタル事業を展開しているユニメイトでは、AIを活用したことでサイズ交換が減り、返品配送料や手間などのコスト削減に成功しました。
これまで顧客は、従業員から自己申告されたサイズをとりまとめてユニフォームを発注していましたが、正しいサイズを申告されていないことが原因で、納品後のサイズ交換が多く発生していました。そこでユニメイトでは、顧客の従業員が体の寸法を正しく測れるように「エアーテイラー」というWebアプリを開発。アプリによって、より正しい体のサイズをAIで画像解析できるようになり、その結果、サイズ交換が減ったのです。DXを通じて実現したダイナミック・ケイパビリティの例と見ることができます。
ソニー損害保険
自動車保険を提供をしているソニー損害保険は、顧客の運転特性をAIで推定できるアプリを開発しました。これによって、安全運転をしているドライバーには保険料をキャッシュバックするという、新しい自動車保険のビジネスモデルを生み出し、保険の加入率アップに成功しました。
この例のポイントは、DXを通じてAIをうまく活用した点にあり、顧客の運転特性や事故リスクを数値として測定することによって可能にしました。従来の自動車保険は、年齢や契約年数などで一律に保険料が決まっていましたが、DXによって顧客の運転特性に即した新しい自動車保険の提供を可能にし、ダイナミック・ケイパビリティを実現したといえます。
カインズ
ホームセンターのカインズは、さまざまなデジタル施策を通じて、自社の売り上げアップに成功しました。例えば「Cainz PickUp」というアプリを開発し、商品を取り置きして希望の店舗で受け取れるサービスを提供しています。
また、「となりのカインズさん」というオウンドメディアを立ち上げ1年で400万PV(※)を達成したり、EC決済した商品をロッカーで手間なく受け取れる「PickUp ロッカー」を店舗に設置したりと、デジタル技術を積極的に活用したサービス提供に大きく舵を切りました。DXを通して、ダイナミック・ケイパビリティの要素である「変革」を思い切って行いうまくいった例といえます。
(※)出典:Yahoo!ニュース|月間400万PVを達成「となりのカインズさん」 オウンドメディア運営の目的とは?
ダイナミック・ケイパビリティの実現に必須となるDX
DX(ディーエックス)とは、「デジタルトランスフォーメーション(Digital transformation)」の略です。データとデジタル技術を活用して、業務プロセスを改善するとともに、製品やサービス、ビジネスモデルの変革、さらには企業文化や風土をも改革することで、競争上の優位性を確立することを指します。
ダイナミック・ケイパビリティが注目されるきっかけとなった「ものづくり白書2020」の中では、「デジタルトランスフォーメーションは、企業変革力を飛躍的に増幅させるものである」(※)と言及がされていて、デジタル技術がダイナミック・ケイパビリティを高める上での強力な武器であるということを強調しています。
ここでは、先に述べたダイナミック・ケイパビリティの3つの能力が、DXによってそれぞれどのように高められるのかを解説し、ダイナミック・ケイパビリティの実現になぜDXが必須といわれているのかを紐解きます。
(※)出典:ものづくり基盤技術の振興施策(ものづくり白書2020)
ダイナミック・ケイパビリティの「感知」を増幅する
「感知」とは、経営環境の危機や脅威を的確に把握する能力のことを指します。これらを把握するのに力を発揮するのが、デジタル技術を活用したデータの収集と分析です。
例えば、ランダムな事象から、環境や状況の変化を分析して、将来の結果を予測することを得意とするAI技術を用いることで、未来の危機を感知しやすくなります。
また、企業が持つさまざまなデータを分析、可視化して、経営や業務に役立てるソフトウェアのBIツールを使うことで、タイムリーに経営分析などを行うことができ、迅速な経営判断につなげることが可能です。このように、デジタル技術を活用するDXによって、「感知」を増幅することができます。
ダイナミック・ケイパビリティの「捕捉」を増幅する
「捕捉」とは、企業内の資源を再構成するための、的確な機会を捉える能力のことを指します。DXによって、リアルタイムにデータを収集して分析することができ、瞬時の判断が必要となる「捕捉」において、強力なサポートが可能です。
例えば、DXの一環として、自社内の書類をペーパーレス化すると、社内の情報を
どこからでもすぐに把握することができます。それによって社外での商談中でも判断材料として瞬時に社内の書類にアクセスでき、素早い判断の助けとなって、「捕捉」の能力を増幅することができます。
ダイナミック・ケイパビリティの「変革」を増幅する
「変革」とは、企業内の資源を状況に応じて変容する能力を指します。デジタル技術によって、経営のさまざまな情報や過程をデジタル上に転換するDXは、そもそも企業の「変革」そのものです。
例えば、今までオフライン環境で行われていた契約や承認などの署名を、DXによって電子署名にすることで、オンライン上で業務を可能にするということは、変革そのものの例の一つといえます。
ダイナミック・ケイパビリティ を実現するために重要な3つのポイント
環境や状況が予測困難なほど変化する時代において、何が起こっても対応できる持続的な競争力を企業が維持するためには、ダイナミック・ケイパビリティの実現が求められます。ここでは、そのために必要な3つのポイントについて解説していきます。
①先を見据えた戦略を立てる経営力
まず、何が起こるかわからない経営環境の現状を的確に把握し、将来を見据えた戦略を立てるという、経営層による経営力が重要です。カインズの例で紹介した、デジタル施策への大きな舵きりのケースのように、ダイナミック・ケイパビリティの実現には会社全体をひっくりかえすような大きな決断やコストがかかることが多々あります。それを乗り越えてダイナミック・ケイパビリティを実現するには、一社員や一部署ではなく、経営層の判断が必要不可欠です。
②限られた資源の効果的な活用
2つ目のダイナミック・ケイパビリティ実現のためのポイントは、限られた資源を効果的に活用することです。そのためには、手間や時間、人件費などのコスト削減につながるDXの推進が有効といえます。
例えば先ほど挙げたユニメイトの例では、AIによる画像解析ができるアプリによって、体のサイズを正確に測定することが可能となり、納品後のサイズ交換が激減。アプリを利用する前は、採寸する手間があったり、また、交換となると返品のための送料や手間も増えたりと経営資源を多く使っていましたが、DXによるデジタル技術やデータの活用で、経営資源の節約につながったといえます。
③多様な人材の確保
3つめのポイントは、多様な技術や能力を持った人材を確保することです。特に、DXリテラシーを持った人材は必要不可欠となるでしょう。DXはダイナミック・ケイパビリティの実現を強力に後押しをするものであり、今後ますます重要性は高まるからです。
しかし、市場全体でDX人材が不足しており、採用で確保するのは難しいのが現状です。そこで自社の社員のリスキリングに取り組み、DX時代にふさわしい知識やスキルを持った人材を社内で育成していくのが望ましいでしょう。
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DXはダイナミック・ケイパビリティ実現の鍵
ダイナミック・ケイパビリティの実現のためには、DXに取り組む必要があり、デジタル技術やデータの活用ができる人材、組織づくりに取り組むことが第一歩となります。
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