日本や世界のDX市場規模・拡大予測から学ぶ、今企業にできることとは?
日本のDX市場規模は今後拡大を続けていくと予想されていますが、これから本格的に自社DXの推進を検討する企業にとって、「今できること」にはどのようなものがあるでしょうか。今回の記事では国内・世界のDX市場規模の予測を踏まえながら、自社DXのファーストステップの例を紹介していきます。
そもそもDXの市場規模とは?
日本や世界のDX市場規模を知る前に、「そもそもDXの市場規模とは?」と疑問に思った方もいることでしょう。なぜなら、DXとは一言でいっても、業界・分野によってDXソリューションは異なるものであり、また企業によって各戦略・施策がDXソリューションと結びつく場合と、そうでない場合が想定されるためです。そこで今回は後述する富士キメラ総研が調査した国内DX市場規模レポートでの記述を参考に、DXの市場規模について考察していきます。
富士キメラ総研が行った国内DX市場規模レポートの記述を参考にすると、各分野・業界のDXソリューションとして挙げられている例は、「AIやIoT、クラウドコンピューティングといった最先端のデジタル技術を活用し、業務やビジネスモデルの変革、新規ビジネスの創出や顧客価値創出を目指す取り組み」と要約することが可能です。これらの取り組みへの投資金額がDXの市場規模であり、各業界・分野の伸びしろとして理解できます。
国内のDX市場規模
株式会社富士キメラ総研が調査した国内DX市場レポートでは、2020年度と2030年度のDX国内市場について以下のような予測が示されています。
2020年度 | 2030年度予測 | 2020年度比 | |
製造 | 1,620億円 | 5,450億円 | 3.4倍 |
流通/小売 | 441億円 | 2,455億円 | 5.6倍 |
金融 | 1,887億円 | 6,211億円 | 3.3倍 |
医療/介護 | 731億円 | 2,115億円 | 2.9倍 |
交通/運輸 | 2,780億円 | 1兆2,740億円 | 4.6倍 |
不動産 | 220億円 | 970億円 | 4.4倍 |
自治体 | 409億円 | 4,900億円 | 12.0倍 |
社会インフラ/建設/その他業界 | 499億円 | 2,078億円 | 4.2倍 |
営業・マーケティング | 1,564億円 | 4,500億円 | 2.9倍 |
カスタマーサービス | 410億円 | 802億円 | 195.6% |
コミュニケーション | 760億円 | 2,290億円 | 3.0倍 |
戦略/基盤 | 2,500億円 | 7,446億円 | 3.0倍 |
合計 | 1兆3,821億円 | 5兆1,957億円 | 3.8倍 |
引用元:株式会社富士キメラ総研プレスリリース「2022 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編」
2020年度時点で最も市場の大きい業界は「交通/運輸」(2,780億円)であり、国内DX市場の約4分の1を占めています。次いで「戦略/基盤」(2,500億円)、「金融」(1,887億円)、「製造」(1,620億円)となっており、いずれも社会インフラを担う業界・分野であることが分かります。
また、2030年度の国内DX市場の予測を見てみると、とりわけ伸び率が大きい業界として「自治体」(12.0倍)が挙げられます。自治体は「自治体戦略2040構想」に代表されるように、少子高齢社会が進む日本において、自治体サービスの維持・向上を目的とした先端技術活用が積極的に推進されていく分野です。現在の自治体サービスでは、紙資料を用いた処理作業や、自治体職員の実働をともなう窓口業務など、アナログ的な運用が目立ちますが、今後は全国的に「AI-OCR」を用いた紙資料のデジタル化、自治体共通の管理・連携システムを用いた情報共有など、デジタル化が推進されていくと推測されます。
さらに市場規模に注目すると、「交通/運輸」の市場規模が1兆2,740億円と、2020年度の国内DX市場に匹敵する市場規模を持つことが予想されています。
世界のDX市場規模
MarketsandMarkets(マーケッツアンドマーケッツ)が発行した調査レポートによると、DXの世界市場は、2021年の5215億米ドル(約59兆円)から、2026年には1兆2475億米ドル(約142兆円)に達すると予測されています。年平均成長率は19.1%であり、新型コロナウイルス感染症蔓延の影響を受けて、DX市場の持続的な拡大が指摘される内容となっています。
新型コロナウイルス感染症蔓延が業界・分野に与えた影響は日本だけに留まらず、全世界中の業界・分野のビジネスモデルに変革を迫る事態となりました。迅速に対応できた事業者は生き残り、様々な足かせを解消できなかった事業者は廃業へと追い込まれたといえます。
DXの本来の目的は、単にデジタル化の範疇に留まらず、様々な先端技術を用いて企業内の業務を変革したり、企業内(内)の変化を通じて、業界・分野の既存のビジネスモデル(外)に変革を加えたりすることを指します。したがって、新型コロナウイルス感染症の蔓延は様々な混乱を招きましたが、結果として先延ばしの懸念があった業務改善や、時代の経過とともに古くなったビジネスモデルの刷新のタイミングを早めたと捉えることができるでしょう。
国内DX市場の拡大が予測される理由
先述したように、国内のDX市場は拡大が予測されていますが、その要因を細かく見ていくと、以下のような理由が浮かび上がってきます。
- 日本のDXが遅れている
- 企業の競争力強化とDXの親和性が高い
- DXレポートと「2025年の崖」の浸透
それぞれの理由について詳しく解説していきます。
日本のDXが遅れている
よく「日本はDX後進国だ」といわれますが、なぜそのような認識となっているのか、気になっている方も多いでしょう。その1つの要因として考えられるのが、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界デジタル競争力ランキング2021」の存在です。
同レポートによると、日本の総合順位は「64カ国中28位」という結果となっており、お隣の中国(15位)や韓国(12位)と比べると、遅れを取っていることが分かります。また、その内容を細かく見ていくと、「Knowledge」のサブファクターとして挙げられている「Talent」は47位、「Technology」のサブファクターである「Regulatory Framework」は48位、「Future Readiness」のサブファクター「Business Agility」は53位と、かなり低い値の評価を受けています。
一方で「Technology」のサブファクター「Technological Framework」は8位であり、さらに細かいファクターである「Wireless Broadband」は2位という結果になっています。Wireless Broadbandは5Gなどの通信技術と解釈できるため、通信技術を扱う企業の国際的な競争力は高いといえるでしょう。
日本には高速ワイヤレスインターネットアクセスのように世界に誇れる技術がありますが、依然として日本全体としてのデジタル競争力は低いままです。こうした状況を楽観的に捉えるならば、日本のDX市場は今後拡大する見込みあるといえるでしょう。
企業の競争力強化とDXの親和性が高い
デジタルディスラプション(デジタル技術を活用した、既存の商習慣・ビジネスモデルの創造的な破壊)などの言葉に代表されるように、日本国内でもAIやクラウド技術を活用して、あらゆる業界・分野で新規参入する企業が増えています。とりわけD2Cブランドの隆盛はアパレルや化粧品分野で顕著であり、既存の業界構造に変化を迫る勢いで市場拡大を続けているといえるでしょう。
企業のサステナブル経営など、積極的に自社DXとしてサステナビリティを取り込む企業も増えており、「競争力強化×サステナブル経営」の両輪で推進することが可能になっている状況があります。企業としては、サステナビリティレポートの継続的な発表を行ったり、経営戦略やマーケティング施策に積極的にサステナビリティを取り入れるなど、多くの企業努力が必要となるでしょう。決して平坦な道のりではありませんが、企業の競争力強化とDXの親和性が高いことにより、今後さらにDXソリューションを検討する企業は増えていくと予測できます。
DXレポートと「2025年の崖」の浸透
2018年初出のDXレポートと、同レポート内で言及された「2025年の崖」が徐々に浸透することで、DX市場未参入の企業が今後取り組みを進める可能性があります。DXレポート2では、日本国内の中小企業の多くがDX未着手・発展途上と推測されており、今後ますます取り組みが加速する機運があると報告されているため、DX市場はこれから拡大時期に入ると考えて良いでしょう。
DXレポートで言及された「2025年の崖」については以下の記事で詳しく紹介していますので、ご一読いただけますと幸いです。
関連:2025年の崖とは?要点・課題・克服方法をわかりやすく解説!
DX市場の拡大に乗り遅れないために企業ができること
国内のDX市場は「日本のDXが世界に対して遅れを取っていること」「企業の競争力強化とDXの親和性が高いこと」「DXレポートと2025年の崖が浸透すること」の3つを理由として今後拡大を続けていくと予測できます。これからDXの取り組みを本格的に推進していく企業にとって、DX市場の拡大に乗り遅れないために今できることにはどのようなものがあるでしょうか。今回は例として3つご紹介いたします。
先端技術を活用したビジネスツールを導入する
DXの初期段階では、まずDXを実現するための社内基盤を整えるため、業務効率化・省力化を目的としたデジタル化を推進していきます。各部門・部署のデジタル化を支えるのは、先端技術(AIやIoT)を活用したビジネスツールであり、既存の業務内容を効率化することで、DX推進のためのリソースを捻出していく必要があります。
また、先端技術を活用したビジネスツールの導入によって、リモートワークのような多様な働き方が可能となり、結果として各部門・部署の意志決定に柔軟性を付与することになります。したがって、まずはビジネスツールの導入によってDXソリューションを検討するためのリソースを捻出することが、1つ目の目指すべき成果となるでしょう。
DX人材の確保・育成に予算を投じる
DXの初期の取り組みとしてビジネスツールの導入を推進すると同時に、自社DXを主導するDX人材の確保・育成が課題として表出します。せっかくDXソリューションを検討するためのリソースを捻出しても、自社DXを力強く牽引するDX人材がいなければ、計画は頓挫してしまいます。まずは「DX人材を確保できるのか」を確認し、難しい場合は「自社でDX人材を育成する(内製化する)」方法を検討しましょう。
現状、DX人材の確保は難しく、現実的な選択として「社内人材の育成」が推進されるでしょう。実際、大企業の多くでリスキリング(社内人材の先端技術を活用したビジネススキルの習得)が実施されており、社員全員をIT人材/DX人材へと育て上げるような気概でDXの取り組みを行っている企業も存在します。
全社的なDXリテラシーを向上させる
ビジネスツールの導入やリスキリングも重要ですが、何より大切なのが「経営層のDXリテラシーの向上を図ること」と「社内全体でDXの雰囲気作りを行うこと」です。DXとはそもそも達成が難しい目標を掲げ、それに向かって1つずつ階段を登っていくような地道な努力が必要とされます。実際、DXの成功事例を調査すると、自社DXの実現に向けて「途上」にあるケースがほとんどであり、その最終的な目標には未到達の企業も多く見受けられます。そうした険しい道を進んでいくにあたり、経営層のDXリテラシーの向上はもちろんのこと、社員全員の自社DXに対する目線を合わせなければなりません。
自社にリソースがない場合は、外部パートナーに協力を依頼し、自社DXの構想に向けたDXリテラシー向上のためのワークショップや講座を計画しましょう。はじめに全社的な目線を合わせることで、DX推進チームの設置や、各部門・部署の連携など、DXの推進ステップをスムーズに進めることが可能となります。
まとめ
国内のDX市場規模は今後も拡大を続けていきますが、この流れに乗り遅れないためにも、今のうちにできることから始めていきましょう。自社DXのファーストステップを検討されている企業様には、弊社が提供している「DXリテラシー講座」のご受講をおすすめしております。
DXリテラシー講座では50以上の業界事例を解説し、事業アイデアの解像度を高めるお手伝いをさせていただきます。また、受講終了後にはアウトプットとしてアイデアシートをご提出いただき、社員一人ひとりの事業アイデアを吸い上げ、形にしていくプロセスを採用しております。講座カリキュラムは6~10時間程度と、最短1日で修了する内容となっておりますので、規模の大きい企業様でもご検討いただけます。DXリテラシー講座の詳しい内容は、以下の資料ダウンロードからご請求ください。
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