1200人の高度DX人材育成への挑戦。JFEスチールが設計した、3職種×4ステージの育成体系と、成果を生む実践型プログラムの全貌
JFEスチール株式会社様
JFEスチール株式会社
日本の基幹産業を支える鉄鋼メーカー・JFEスチール株式会社は、第8次中期経営計画において、業務プロセス改革と生産プロセスにおけるCPS(サイバー・フィジカル・システム)の深化を掲げ、その実現の鍵として「DX人材の育成」を全社戦略の中核に据えています。
同社が目指すのは、2027年度末までに「高度DX人材1,200人」を輩出するという壮大な目標です。単にデジタルツールを使える人材を増やすのではなく、業務プロセスの変革をリードする「ビジネスイノベータ」、データ分析で製造工程の高度化に貢献する「データサイエンティスト」、そしてローコード市民開発者の後継として自らプロダクトを設計・開発する「デジタルデザイナー」——この3つの専門人材を、明確なステージ定義と認定要件のもとで体系的に育成する。その緻密な設計思想と、公募開始直後から想定を超える応募が殺到した現場の熱量が、この取り組みの真価を物語っています。
■ 取り組みの背景と課題:「次のステージ」へ進化するために
JFEスチールでは、各部門で先行的にDX関連の取り組みが進められてきました。しかし、第8次中期経営計画で掲げた全社規模でのCPS深化を実現するためには、これまでの取り組みをさらに発展させ、全社横断で統一された育成体系へと進化させる必要がありました。
全社共通の「ものさし」の確立: DX人材のステージ定義を全社で統一し、認定条件を明確にすることで、育成の進捗を可視化し、一人ひとりが「次に何を目指せばよいか」を描ける仕組みを整えること。
体系的な教育プログラムの構築: 各ステージに対応した教材・カリキュラムを整備し、ビジネス変革を担う人材のキャリアパスを明確に提示すること。
学びへの動機づけの仕組み化: DX人材としての成長がキャリアとして評価される環境を整え、現場の自発的な学びとスキルアップを後押しすること。
こうしたビジョンのもと、同社は経済産業省の「デジタルスキル標準」を踏まえつつ、自社の事業特性に即した独自の4ステージ×3職種のDX人材育成体系を2025年度より本格稼働させることを決定。ステージ1(全社員)からステージ4(社内展開人材・リードする)まで、各ステージの到達要件と目標人数を明確に設定し、組織全体で育成の「ものさし」を共有する仕組みを構築しました。
■ DX人材の3職種と4ステージ
JFEスチールが定義した高度DX人材(ステージ3・4)は、以下の3職種で構成されています。
ビジネスイノベータ(X〈変革〉人材): 部長指名による室長・GL等のリーダー層を対象に、ビジネスプロセス変革の課題発見から施策立案までをリードする人材。ステージ3・4合わせて85人の育成を目標とする。
データサイエンティスト(D〈デジタル〉人材): 主としてエンジニアを対象に、AI・機械学習・最適化・ロボ開発・熱流体解析等の高度な分析スキルを駆使し、製造工程の品質・生産性向上に貢献する人材。ステージ3・4合わせて840人の育成を目標とする。
デジタルデザイナー(D〈デジタル〉人材): RPA・BIツール等を活用したデータ処理・可視化から、プロダクト設計・開発までを担う人材。業務部門含め幅広く対象とし、ステージ3・4合わせて275人の育成を目標とする。
各ステージには明確な認定条件が設定されており、たとえばビジネスイノベータのステージ3認定には「STAGE3研修」の受講とビジネス変革テーマの提案が、ステージ4認定には変革プロジェクトへの投資認可または案件完了が求められます。この「何をすれば次のステージに上がれるか」が可視化された設計が、受講者の目標意識と学びへのモチベーションを強力に喚起しています。
■ 支援内容:3コース×オリジナルコンテンツの伴走型プログラム
STANDARDは、JFEスチールの3職種それぞれに対応した「STAGE3研修」(BI・DSコース)および「STAGE4研修」(DSコース)の設計・実施を支援。
・プログラム設計:3ヶ月の綿密な共創
本プログラムは2025年度からの初めての取り組みであり、研修内容の設計に先立ち、約3ヶ月にわたる綿密な議論を重ねました。カリキュラムの構成だけでなく、「社内にどう公募するか」「どのように応募を集め、プログラムの存在を浸透させるか」といった運営面の設計にも深く関与。全社的な取り組みとして最大限の効果を発揮できるよう、両社で知恵を出し合いました。
プログラム開始後も、全社規模の取り組みならではの調整が必要となる場面がありましたが、当初予定していた日程構成からの変更にも柔軟に対応し、現場の実態に即した運営を実現しました。
・ビジネスイノベータ(BI)コース:課題発見から企画化までの一気通貫
Day0(事前学習):Eラーニング受講・DX基礎講座
Day1:課題設定の基礎・業務効率化
(自主ワーク+伴走mtg)
Day2:施策選定・企画書作成
(自主ワーク+伴走mtg)
Day3:最終発表
BIコースでは、課題の設定から施策検討、企画書作成まで、ビジネスプロセス変革に必要な一連のフローを体系的に学びます。座学だけではなく、受講者各人が自身の実業務からテーマを持ち寄り、そのリアルな課題について検討・企画化するスタイルを採用。個人ごとの取り組みに対してSTANDARDのコンサルタントが伴走支援を行うことで、各受講者が具体的かつ実行可能なビジネス変革テーマを創出することができました。
・データサイエンティスト(DS)コース:受講者同士が高め合う実践の場
Day0(事前学習):Eラーニング受講・DX基礎講座
Day1:分析設計の思考プロセスを理解する
(受講者 分析実施期間)
Day2:分析結果の集約と施策・提言の検討
(受講者 企画書作成期間)
Day3:分析結果共有・プレゼンテーション
DSコースの最大の特徴は、講義主体ではなく、高度な分析スキルを持つ受講者同士が互いに刺激し合い、高め合う仕掛けを導入した点です。講義も一部取り入れながら、各受講者が自身の現場における製造工程のデータを用いた分析に取り組み、その成果を共有・議論するプロセスを重視しました。この結果、各現場の製造工程に大きく寄与する分析結果や、分析に基づく施策企画が実際に創出されました。
・デジタルデザイナー(DD)コース:ユーザー起点のアジャイル開発
Day0(事前学習):Eラーニング受講・DX基礎講座・コンセプチュアルスキル基礎講座
Day1:アジャイル開発基礎研修(アジャイル・スクラム管理技法の講義+ケースプロジェクトへの適用WS)
DDコースは、自らプロダクト開発を行い社内に推進していくための実践力を養うプログラムです。アジャイル・スクラムの基礎を体系的に学ぶとともに、ユーザー起点での開発の要諦を習得。本コースは完全オリジナルコンテンツとして開発され、受講者の声をつぶさに拾い上げながらプログラムを継続的にブラッシュアップしていきました。プログラムには本社や製鉄所の事務所の方、工場勤務の方などが参加し、受講者自体に多様性がありました。また、昨今の生成AIの発展を踏まえて、ステージ認定要件にCopilot Studioも追加。柔軟にプログラムや要件などを現状に合わせていきました。
■ 取り組みの成果:想定を超える「学びへの渇望」
・公募で想定を超える応募
プログラム開始当初、応募人数は未知数でした。しかし、ふたを開けてみると、複数コースで上限人数を超える応募が集まりました。この反響は、JFEスチール社内における「DXスキルを身につけたい」「自らのステージを上げたい」という学びへの強いニーズを明確に示すものであり、育成体系そのものの設計が現場の動機づけに効果的に機能していることの証左でもあります。
・3コースそれぞれの具体的成果
BIコース: 受講者一人ひとりが実業務の課題に基づいたビジネス変革テーマを企画化。伴走支援を通じて企画の質を向上させ、ステージ3認定に向けた変革提案を創出。
DSコース: 受講者同士の相互刺激により、各現場の製造工程に直結する高度な分析成果が複数生まれ、施策・提言として経営層への報告に繋がる企画が創出。
DDコース: アジャイル開発の思考法とユーザー起点の設計アプローチを実践的に習得。受講者のフィードバックを即座に反映するプログラム運営自体が、アジャイルの体現となった。
■ 成功の要諦:JFEスチール流・DX人材育成の3ポイント
精緻な育成体系の設計力: 3職種×4ステージの人材定義、各ステージの認定要件、目標人数の設定まで、全社統一の「ものさし」を緻密に設計。何を学び、何を達成すれば次のステージに進めるかが明確であることが、受講者の自律的な学びを促進しました。
3ヶ月の共創による「地に足のついた」プログラム設計: 初年度の取り組みだからこそ、拙速に始めるのではなく、カリキュラム設計から社内公募の方法、浸透施策まで約3ヶ月の議論を両社で積み重ねました。この投資が、現場の実態に即した実効性の高いプログラムを生み出しました。
コース別のオリジナルコンテンツ開発と柔軟な運営: BI・DS・DDの各コースで、JFEスチールの事業特性と受講者層に合わせた完全オリジナルのコンテンツを開発。全社的な取り組みに伴う日程変更等にも柔軟に対応し、受講者の声を拾いながらプログラムを進化させ続けました。
※JFEスチールが属するJFEグループは、DXへの取り組みが評価され、経済産業省・東京証券取引所・IPAによる「DX注目企業2026」に選定されています(選定主体:JFEホールディングス)。
お客様の声
本教育カリキュラムの企画・導入にあたり、STANDARD社は受講者の声を丁寧に拾い上げ、次の内容に反映して継続的にブラッシュアップしていく柔軟な姿勢が非常に印象的でした。
カリキュラムは最新のデジタル技術の紹介にとどまらず、本質的には課題発見力やユーザー視点を重視しており、受講者が自部門に閉じず、他部門も含めた広い視野で業務を捉える重要性を学べる点が大きな強みです。
また、短期間で成果創出を目指す中で設定された伴走ミーティングは、検討の質を高めるうえで非常に有用であり、実践に直結する支援として高く評価しています。
教育の成果としては、ビジネスイノベータ研修からはAI等を活用した業務改革案、データサイエンティスト研修からは生産性・歩留まり向上に資する分析施策が多数創出され、収益貢献に直結しています。さらにデジタルデザイナーによるRPA等の開発により業務効率化も進展しました。
今回の取り組みにご尽力いただいたSTANDARD社の皆様に、心より感謝申し上げます。

本取り組みを通じて、当社のDX人材育成の方向性がより明確となり、全社的な推進基盤を整備することができました。
初の取り組みであったDX人材研修は想像以上の反響を呼び、受講者から多様な要望が寄せられましたが、それらに対してSTANDARD社の皆様に柔軟かつ迅速に対応いただいたおかげで、当社としてもより良い研修運営を実現できました。
構想段階からの丁寧な伴走とレスポンスの速さ、さらには依頼以上の価値提供に対し、大変感謝しております。

弊社担当者の声
JFEスチール株式会社の皆さまとご一緒する中で、私たちが最も心を動かされたのは、「全社で一つの育成体系をつくり上げる」という構想にかけられた、その緻密さと覚悟でした。
3職種×4ステージという人材定義、各ステージの認定要件、そして職種ごとの目標人数まで。「何を学び、何を成し遂げれば次のステージに進めるのか」を一人ひとりが描けるよう、全社共通の「ものさし」を精緻に設計しきる。この設計思想こそが、今回の取り組みの根幹にあったと感じています。
そして、その基準を社内に示したときに起きたのが、想定を大きく超える応募でした。複数コースで上限人数を超えるほどの反響は、JFEスチールの皆さまの中に「自らのステージを上げたい」「DXの担い手になりたい」という主体的な学びの意欲の表れだと受け止めています。緻密に設計された制度は、人を型にはめるものではなく、むしろ「次に目指すべき場所」を照らす成長の道しるべとして、一人ひとりの成長意欲をさらに引き出していくものと思います。その大きな手応えを、私たちはこのプロジェクトを通じて学ばせていただきました。
初年度の取り組みであったからこそ、私たちは拙速に走り出すのではなく、約3ヶ月にわたり、カリキュラム設計から社内公募の在り方、浸透施策に至るまで、両社で徹底的に議論を重ねました。BI・DS・DDの3コースそれぞれに、JFEスチール様の事業特性と多様な受講者層に寄り添った完全オリジナルのコンテンツを開発し、現場の実態に応じた日程の見直しや、生成AIの進展を踏まえたCopilot Studioの要件追加など、受講者の声を拾い上げながらプログラムそのものを進化させ続ける。地に足のついた共創の積み重ねが、各現場の製造工程に直結する分析成果や、実行可能なビジネス変革テーマの創出へと結実したことを、私たちは大きな誇りに感じています。
高度DX人材1,200人という壮大な目標は、第8次中期経営計画が掲げるCPSの深化、そしてその先にある日本のものづくりの未来へと続く道のりです。私たちSTANDARDは、これからもJFEスチールの皆さまの真摯な挑戦に寄り添い、緻密な設計と現場の熱量とを繋ぎ合わせながら、この大きな目標の達成に向けて、共にまい進してまいります。

マネージャー 清水 敬治
