今さら聞けない「人的資本経営」とは?背景や「3P・5F」をわかりやすく解説!
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2022年8月に内閣官房から「人的資本可視化指針」が発表され、日本はこれからますます「人的資本」を重視する社会となっていくことが予測されます。経営者や企業の担当者の中には、人的資本経営をすでに社内で推進している方もいることでしょう。一方で、急に「人的資本経営」に携わることになり、概要の理解も追いつけず悩んでいる方もいるのではないでしょうか?
この記事では、「今さら聞けない」と感じている方に向けて「人的資本経営」の基本的な概念や重要視されるようになった背景、人的資本経営の推進手段となる「3P・5F」の枠組みなど、今知っておくべき人的資本経営についてひととおりを解説しています。ぜひ、参考にしてみてください。
「人的資本経営」とは?
「人的資本経営」の概要について解説をしていきます。「人的資本」とは何かを踏まえて「人的資本経営」の意味を説明し、従来の経営で重要視されてきた内容からどのように変化したのかを見ていきます。
人材の価値を引き出すことに焦点を当てた経営
企業の価値を決める要素として、これまでは目に見えるオフィスや土地、駐車場などの形がある有形資産が重要視されてきましたが、近年重きが置かれるようになっているのは、従業員の能力や経験といった目に見えない無形資産。
その無形資産の一つである「人的資本」とは、個々の人に備わった知識や技能、属性などを指します。注目されている「人的資本経営」(※)とは、一人一人の人材を単なる労働力として使うのではなく、最大限にその人の価値を引き出そうとすることで、企業の中長期的な価値向上につなげようという経営のあり方です。
現代では、AIなどのデジタル技術が発展し、機械に任せられる仕事が増えていますが、アイデアを提案したり、イノベーションを生み出したりなど、人にしかできない仕事が、企業価値を高め、継続的な企業経営に必要不可欠だという認識が広がっています。
(※)出典:経済産業省|人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~
従来との違いは人材への投資と人材データ活用の重視
「人的資本経営」が重要視される以前は、人材は道具のように消費するものという考え方が一般的で、「資源」として捉えられていました。
近年では、人材は「資本」であり、個々の能力を引き出すことが、企業の価値向上につながると捉え直されています。研修など人材にかける資金は「費用」から「投資」という認識に変わってきました。
また、従来の人材に関する情報は、感覚的に把握されていただけの部分が大きかったですが、現在は数値に基づく客観的な指標で人材データを収集し、効率的に企業の意思決定を行っていくことが重要視されつつあります。
「人的資本経営」が重視されるようになった3つの背景
人材の能力を最大限に引き出すことで、それを企業価値向上へつなげる「人的資本経営」という考え方がなぜ重視されるようになったのか、その背景をここで3つ挙げて解説します。
①テレワークなど働き方の多様化
2020年の新型コロナウイルスの感染拡大によって、在宅で仕事をするテレワークという働き方が増えました。また、育児や介護など一人一人の事情や状況に合わせて、柔軟に勤務時間や場所を選んで働ける職場を求める人も増えつつあります。
新型コロナウイルスの完全な終焉は見えず、少子高齢化によって働き手自体が少なくなりつつある現代では、従業員が安全に安心して仕事ができるテレワークの環境を整えて、優秀な人材を確保していくことが、企業の中長期的な競争力を保つことにつながります。また、テレワークを可能にするためには社内でDXを推進し、時間や場所を選ばず仕事ができるようにデジタル化を進めることが急務です。
②働き手の価値観の変化
仕事と私生活を両方充実させたいというワークライフバランスを重視している人や、外国人従業員、シニア人材の増加など、現代はさまざまな働き手がいて、多様な価値観が企業内に混在しています。
中長期的に企業価値を高めるためには、多様な個人が高いモチベーションを持って企業で活躍できるように環境を整えることが重要です。そのためには、働き手の価値観をはじめ、スキルや属性など人材ポートフォリオの状況を定量的に把握して、適材適所に人材を配置する必要があります。どんな人材かを定量的に把握し的確に配置するには、DXを通じたデータの活用が不可欠です。
③人的資本に注目した投資家の動き
有望な投資先を選ぶために投資家は、企業の財務情報だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の要素も考慮した「ESG投資」(※)に注目しつつあります。人的資本は、ESG投資の評価項目の一つとなっているため、人的資本経営が重要視されているのです。
人的資本経営では人材戦略と経営戦略を連動させることで、中長期的な企業価値の向上につながります。そのためにはデータを活用して、人材戦略と経営戦略のギャップを定量的に測り、差異を埋めることが必要です。
(※)出典:経済産業省|ESG投資
人的資本経営の推進手段となる「3P・5F」とは?
企業価値の向上につながる人的資本経営や人材戦略を推進する手段として示されている「3P・5F」。人的資本経営に関連する重要なこの枠組みについて、詳しく解説していきます。
人的資本経営を推進する手段となる枠組みが「3P・5F」
「3P・5F」とは、企業価値を高め続ける人材戦略に必要となる「3つの視点(Perspectives)」と、どんな企業でも共通して戦略に組み込むべき「5つの要素( Factors)」を示した人材戦略の枠組みです。
この枠組みが提唱されたのは、2020年9月に経済産業省が発表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」という報告書です。通称「人材版伊藤レポート」と呼ばれています。
次に、3Pと5Fについてそれぞれ詳しく見ていきましょう。
3P=「人的資本経営の戦略に必要な3つの視点」を詳しく
企業価値の向上につながる人材戦略かどうかを検討する際に、どのような視点からチェックすると良いのかを示したものが以下の「3つの視点(Perspectives)」=3Pです。
- 経営戦略と人材戦略の連動
- As is-To beギャップの定量把握
- 企業文化への定着
1つ目は、経営戦略と人材戦略の連動ができているかどうかという視点です。経営戦略と人材戦略が連動していないと、企業価値の向上にはつながりません。例えば、経営戦略として海外進出を考えているなら、語学堪能な人など海外で活躍できる人材を集めることで、人材戦略と連動していると言えます。
2つ目は、「As is=現在の姿」と「To be=理想の姿」のギャップをできるだけ数値化して、定量的に把握するという視点です。
3つ目は、ギャップを埋めるようにとった戦略がうまくいったのかどうか、企業文化への定着度をできるだけ数値で測り、将来を見据えた人材戦略を再検討するという視点です。
出典:経済産業省|持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート ~
5F=「人的資本経営の戦略に必要な5つの共通要素」を詳しく
企業価値の向上につながる人材戦略のために、どんな企業でも共通して組み込むべき要素を示したものが「5つの要素( Factors)」=5Fで、以下の通りです。
- 動的な人材ポートフォリオ
- 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
- リスキル・学び直し
- 従業員エンゲージメント
- 時間や場所にとらわれない働き方
1つ目は、社内のどこに、どのような職種やスキルの人材が、どれだけいるのかを表す動的な人材ポートフォリオを作成しているかという要素です。適材適所に人材が配置されていることで企業の価値を高めます。
2つ目は、従業員が持つ、経験や感性、価値観、専門性といった知と経験の多様性を認め、企業の中にうまく取り込んでいるかという要素です。
3つ目は、個人のリスキルや、スキルシフトの促進、専門性の向上を実践していくという要素です。経営者自身も、DXの推進を始め、自ら率先してリスキルや学び直しを実践していくことが求められます。
4つ目は、従業員がやりがいや働きがいを感じ、主体的に業務に取り組むことができる環境を創りあげるという要素です。
5つ目は、時間や場所にとらわれず、安全で安心して働くことができる環境を平時から
整えるという要素を意味します。
出典:経済産業省|持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート ~
DX時代に取り組むべき人材戦略とは
これまで、人的資本経営に必要となる3つの視点と5つの要素を解説しましたが、これらの要件を満たすには、AIやIoTといったデジタル技術やデータの活用は不可欠です。
同時に、デジタル技術とデータ活用に強い人材が社内で必要となります。現在では労働人口の減少によって、人材不足があらゆる業種や職種で問題となっており、新たにそのような人材を引き入れるのは容易ではありません。
そこで今の時代の人材戦略においては、自社の中で最先端のデジタル技術やデータ活用についての知見を従業員に身につけさせるとともに、デジタルを武器に自社や顧客の課題を解決していくアイデアを創出できるようなDX人材を育成していくことが必要となります。DX人材を自社内で育てていくことが、企業価値を高め、競争力を強化することにつながるのです。
中長期的な企業価値向上にはDX人材育成が必要
中長期的な企業価値向上のために、時代に合わせた取り組みが求められます。DX時代においてはデジタルなどの先端技術に対する知識や高いリテラシーを持った人材を育成し、DXを推進していくことが企業価値向上につながるといえるでしょう。
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