製薬業界でのAI活用事例【新薬開発へのAI活用】
製薬業界の全体感について
製薬業界は市場規模が約10.3兆円、世界市場でも約6%を占める巨大産業です。しかし、多くの大手製薬会社が既存商品の収益を柱としているため、現状からの転換を模索しています。その中で活用が広がっているのがAIです。
製薬業界は常に新薬の開発を行なっています。しかし、新薬開発には膨大な時間とコストがかかるとされています。
厚生労働省の発表した「医薬品産業の現状と課題」によれば、新薬の研究開発には10年以上の歳月を要し、1,000億円以上のコストがかかっています。また新薬開発の成功確率は1/25000と年々難易度が上昇しているのが現状です。そのためAIを活用しての時間とコストの削減に動いています。
さらに国民の医療費負担が年々上昇しています。財務省が発表した「社会保障について② (医療)」によれば、国民医療費は過去10年間で平均2.4%/年のペースで増加しており、これ以上の負担増を防ぐために、医療費の増加を抑制することが必要と提言しています。
医療費が上がってしまうと、製薬会社は新薬を開発しても採算が取れずに困窮してしまうため、新薬開発にAIを活用して開発コストの低下を図っているのです。
新薬開発や世界的な競争にはデータが用いられます。製薬業界はデータを有効活用するためにAIが次々に投入されている段階です。
より効率的にスピーディーに行うために変化している段階なのが、現在の製薬業界です。
参考:医薬品産業の現状と課題
製薬業界の課題・解決すべきテーマについて
現在、製薬業界が抱えている課題は主に下記の2つが挙げられます。
①研究開発費の確保
②デジタル分野への投資
製薬業界の課題①:研究開発費の確保
国内製薬会社の売上高ランキングは「AnswersNews」によると、武田薬品工業 3兆2912億円でトップ、以下大塚ホールディングス(HD)、アステラス製薬と続いていき、上位3社が1兆円を超える売上高を誇っています。
現在、日本のみならず世界中で新薬の研究開発費の高騰しており、「医薬品産業の現状と課題」によれば、1社当たりの研究開発費は2004年から800億円近くも上がっています。
こうした研究費を確保するには売上高を上げていくことが大切です。しかし、新薬開発には特許技術が必要な場合も多々あり、研究開発費のコストは嵩んでしまっています。海外では研究開発費の確保するために、製薬会社の買収を行い、特許を自社で扱うようにすることで研究開発費を捻出している企業も多くあります。
継続して新薬開発への研究開発費の確保は製薬会社の未来を決めることなので、とても大きな課題です。
参考:【2020年版】国内製薬会社ランキング 武田、3兆円超えでトップ独走…海外拡大で上位は軒並み増収
参考:医薬品産業の現状と課題
製薬業界の課題②:デジタル分野への投資
厚生労働省は『医薬品産業の現状と課題』の中で「医薬品開発へのAIの活用によって、画期的な医薬品の創出、開発期間の短縮や開発費用の低減が期待できるため、医薬品開発をAI活用を進めるべき重点領域に選定」としています。
つまり国が積極的にデジタル分野への投資を訴えているです。なぜなら日本の製薬業界ではデジタル分野への投資が大きく遅れているとされているからです。
デジタル分野への投資を行うことで、新薬の開発や医師への情報提供や営業などを効率的に行うことができるとことは間違いありません。現在、大手製薬会社などはデジタル化を推し進めている一方で、デジタル化に投資できていない企業も多くあります。
メディクト代表取締役社長 下山直紀氏によれば、「製薬業界のデジタル化はスピード感をもって実行しないと、ますます先行組との差が開くことになる。」としています。
デジタル分野へ積極的に投資を行い、製薬ビジネスをシフトしていくことが大きな課題となっています。
参考:医薬品産業の現状と課題
参考:リアルからデジタルへシフト加速、スピード感と個別化がカギ ~メディクト代表取締役社長 下山直紀氏に聞く~
関連:【進化する製薬業界】デジタルツールの活用例からみる今後のDXの方向性とは
製薬業界におけるAIの活用事例
AIを活用した新薬開発の期間短縮
新薬を作る際には膨大な組み合わせの中から、適した化合物の構造を見つける必要があります。そして適した化合物を発見するまでには、2~3年かかることが従来の考え方でした。
しかしAIのアルゴリズムを活用することで、AIが適した化合物を提案、毒性などの特性予測を行い期間の短縮を目指します。
事例
大日本住友製薬と Exscientia Ltd.の共同研究 人工知能(AI)を活用して創製された新薬候補化合物のフェーズ1試験
課題
創薬の時間短縮と研究者が思いつきづらい化合物の提案
解決策
AI創薬プラットフォームであるCentaur Chemistを導入
効果
強迫性障害治療薬として開発した新薬は、従来4年半かかっていた探索研究を1年未満で完了させることができ、世界初の臨床試験に到るまでになりました。
病気の新薬を求める患者に大きなメリットをもたらす結果となっています。また、今後はさらに探索研究の期間を短縮することが期待されており、10ヶ月を目標にさらなる研究を続けています。
参考:大日本住友製薬と Exscientia Ltd.の共同研究 人工知能(AI)を活用して創製された新薬候補化合物のフェーズ 1 試験
参考:世界初の臨床試験開始「AI使った創薬は実用段階に」|エクセンティア日本法人・田中代表
治験作業の効率化
出典:中外製薬株式会社 治験関連文書作成効率化ソリューション全体像資料
新薬を国から承認を得るために行う治験は、多くの段階と作業が発生し、数ヶ月〜数年にわたるものがほとんどです。
特に多くの作業が発生する業務は文書の作成です。計画から承認、実施に至るまでを文書で行うため、文章作成業務を効率化させることで、治験のスピードアップを図ります。
事例
中外製薬とNTTデータ、AI技術を活用した治験効率化ソリューションの実証実験
課題
治験関連文書に多くの労力と時間が割かれ、新薬開発に向けて効率化を行うことが課題でした。
解決策
治験関連文書の作成効率化ソリューションを導入することで、文章作成作業の効率化を目指す。
効果
「同意説明文書」および「症例報告書(blank)」の作成にソリューションを導入し、「同意説明文書」で平均61%、「症例報告書(blank)」で平均40%の業務削減効果が実証されました。
今後は治験関連文書の対象を拡大させ、さらなる効率化に向けて動いていき、2021年度の商用化を目指していきます。
参考:中外製薬とNTTデータ、AI技術を活用した治験効率化ソリューションの実証を完了
医療従事者や患者からのの問い合わせ対応
製薬会社には医療従事者や患者からの薬に対する問い合わせが多く発生します。
新薬を市場に提供したら終わりではなく、薬の効果や用法、用量など正しい情報を発信する必要があります。
正確な情報を数多く提供するため、担当者の負担増に繋がっているケースもあったため、チャットボットによる自動応答による業務負担軽減が求められていました。
事例
中外製薬株式会社による「MI chat(エムアイチャット)」の利用
課題
年間で60,000件の問い合わせに加え、定型的な質問が多かったこと。
解決策
「MI chat(エムアイチャット)」を導入することで、定型的な質問を自動的に回答することで担当者の業務負担軽減と医療従事者や患者への利便性向上を図ります。
効果
24時間365日対応を実現させ、問い合わせからの回答に対してタイムラグがなくなりました。加えて、新たにチャットボットを選択肢に加えたことで、問い合わせる医療従事者は情報検索に費やす時間を減らすことになっています。
またユーザー認証と復唱機能を活用し、問い合わせ内容に対して間違った回答を行うことがないようにすることで、問い合わせへの満足度向上を図っています。
参考:AIを用いた医療従事者向け製品情報問い合わせチャットボット 「MI chat(エムアイチャット)」の運用を本日より開始
参考:医師・薬剤師の質問に24時間対応 各種規制にも準拠 中外製薬の製品問い合わせチャットボット「MI chat」誕生秘話
まとめ
製薬業界は我々の健康を守る要となる業界と言えます。
新薬の開発にAIの力が加われば、これまでとは全く異なるスピード感で新薬開発の実現も可能になっていくでしょう。そして新薬が早くできることは、病気で苦しむ患者さんの命を一人でも多く救う結果にも繋がります。
今後もさらにAIの有効活用が求められる業界と言えるでしょう。
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