SF2030実現に向けたDX人財基盤づくり|オムロンが進める1万人規模の国内全社員DX教育
オムロン株式会社様
オムロン株式会社
独自の「センシング&コントロール+Think」技術を核に、制御機器、ヘルスケア、社会システム、電子部品、そしてこれらの事業をつうじて取得した多種多様なデータを活用したデータソリューション事業を展開するオムロン株式会社。
同社では現在、長期ビジョン「Shaping the Future 2030(以下、SF2030)」の実現に向け、国内全社員約1万人を対象としたDX教育プロジェクトを推進しています。
この度、STANDARDのDX個別教育プラットフォーム「TalentQuest」を導入いただいた背景と、組織にもたらした変化について、プロジェクトを牽引されたデジタル戦略構築部 主査 長門様にお話を伺いました。
1. 【背景・目的】「SF2030」実現に向け、社員自らが選んだDX教育
── 今回、国内の全社員を対象とした大規模な教育プロジェクトを実施されたのには、どのような背景・想いがあったのでしょうか?
弊社の長期ビジョン「SF2030」では、「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」という社会的課題の解決を掲げています。その実現には、複雑化・多様化する社会課題を正しく捉え、データから解決の糸口を見出していくために、データやデジタルを活用した経営・事業変革が不可欠です。
しかし、ツールやシステムを導入するだけでは変革は起きません。最終的にそれを活用するのは人であり、人財が持つスキルやそれらを正しく使いこなすための考え方が重要な基盤になると考えています。
「SF2030」の1st Stageの非財務目標を検討する過程で社員投票を実施したところ、「DX教育」が最も関心の高いテーマとして挙がりました。社員自身がDXやデジタルの学びを必要としていることが明らかになり、DX人財育成を本格的に進めていくきっかけになりました。
全社的にDXを推進し、事業変革を進めていくためには、社員一人ひとりが業務の中でデジタルを活用していくための前提となる考え方やスキルを身につけることが重要だと考えています。こうした素養が全社に浸透することで、共通の前提のもとで議論や実践ができる状態、いわば「共通言語」を持つことにつながります。
経済産業省の定めるデジタルスキル標準(DSS)においても、DXに関する基礎的な知識や考え方は、全てのビジネスパーソンが身につけるべきものとして定義されており、それはまさに我々が求める「共通言語」でした。
さらに、「共通言語」がないことによって、業務改善やデジタル活用をリードする一部の人財に業務が集中してしまう課題もわかってきました。全社としてDXに関する理解やデジタル活用の前提が十分に共有されていない状態では、そうした人財が現場のデジタル活用や業務効率化の多くを担うことになり、より高度な変革に取り組むためのリソースを確保しにくくなっていました。
そのため、全社員のDXに関する知識やスキルを底上げし、誰もが基本的なデジタル活用や業務改善に主体的に取り組める状態をつくることが重要だと考えました。
しかし、一口に全社員と言っても、現在のIT/DXに関する理解度や業務での経験値は一人ひとり異なります。全員に同じ教育を一律に行うだけでは、真の底上げにはつながりません。そこで、まずはアセスメントを通じて社員一人ひとりの現在地を可視化し、それぞれが必要な学びを最適な形で進められる仕組みとしてDX教育の取り組みを進めることにしました。
一人ひとりの現在地や強みを可視化し、全員が変革を進められる準備を整えること。それは単なる教育施策ではなく、持続可能な人財基盤づくりと捉えています。
オムロンは企業理念の中で「人間性の尊重」を掲げており、人の可能性を信じて一人ひとりの能力を発揮してお互いの強みを活かすことを大切な価値観としています。個々の現在地を尊重し、最適な成長を支援する今回の施策はまさにこの土台となる重要な取り組みです。
── プロジェクトをスタートさせるにあたり、具体的な目標はどのように設定されましたか?
前提として、今回の教育はそれ自体が目的ではなく、あくまで変革に向けた「人財基盤づくり」という長期的な視点に立っています。
そのため、まずは、全社員が等しくデジタル活用に関する基礎を学ぶ機会を持つこと、つまり「全社員への学習展開」を第一の目標として重視しました。
そして、もう一つの重要な目標が「現在地の正確な把握」です。一律の学習を展開するのではなく、まずはアセスメントを通じて社員一人ひとりのIT/DXに関する理解度を可視化することから始めました。
最終的な目的である「人財基盤づくり」に向けて、まずはそれぞれの現在地を起点として学習を進め、全社的にDXリテラシーを獲得し、データやデジタルを活用した事業変革を推進できる状態をつくること。これを本プロジェクトの具体的なゴールとして設定しました。
2. 【進める上でのポイント】全社展開を見据えた運用設計
── 全社員規模、かつ長期間の研修は実質初めての試みだったと伺いました。プロジェクトを進める上で、特に重視されたポイントは何でしたか?
今回の取り組みは国内全社員を対象とした大規模かつ長期間の施策であったため、受講状況の把握や進捗管理、問い合わせ対応なども含め、関係部門との緊密な連携を前提とした運用設計が重要だと考えていました。
全社規模の取り組みを円滑に進めるため、事務局だけでなく、他の本社機能部門や現場部門とも協力しながら、全社展開の進め方や運用体制について検討を重ねました。
また、本施策は自己学習として任せるのではなく、あくまで業務の一環として位置づけて取り組みました。一方で、社員にはそれぞれ主業務として担っているプロジェクトや業務があるため、それらをおろそかにすることなく、並行して学習を進められるように、いかにバランスを取るかが大きな課題でした。
そのため、学習にかかる時間が過度に大きくならないようにするとともに、理解している内容は改めて学ぶ必要がないようにするという点も重視していました。
こうした運用面と学習設計の両面から全体を設計することが、今回特に重視していたポイントです。
3. 【選定理由】運営を支える「体系的かつ柔軟なカリキュラム」と、受講者目線の「個別教育という学習体験」
4. 【施策・運用】全社展開を支えた部門連携と検証・改善を続けた運用体制
── 1万人規模の取り組みを安定して運用され、受講率は99%を超えられましたが、その背景には、どのような工夫があったのでしょうか?
今回の取り組みでは、国内の全社員を対象とした大規模かつ長期間の教育施策だったため、単に学習環境を用意するだけでなく、組織全体で受講を支える運用体制を整えることが重要でした。特に、3つの観点を重視して運用を進めました。
第1に、多面的なフォロー体制です。
まずは我々事務局からの案内、次に事業部門窓口から部門内での周知、最後に経営・上位職からの落とし込みと、受講者への発信を段階的に進めていきました。特に、事業部門とは、研修開始前から目的や必要性、研修の価値を共有して協力体制を構築して進めることができ、経営・事業・ITの三位一体で取り組むことができたことが大きな成功要因と考えています。
第2に、人事部門・広報部門との密な連携です。
研修設計当初から全社展開のノウハウを持つ人事部門と協働し、カリキュラム設計から運用設計まで、一緒に作り上げてきました。また、広報部門とも協働し、研修サイト構築から社内のニュースレター配信、ポータルサイトからの誘導など、導線・意識づけに配慮しました。
第3に、事前検証と継続的な改善です。
導入前にプロジェクトメンバーで受講プロセスを検証し、「どこでつまずくか」「何が分かりにくいか」を洗い出しました。分かりにくさが残る部分はガイド・Q&Aでフォローしながら、問い合わせを受けて継続的に改善しました。
これらの準備と運用の積み重ねが、全社員を対象とした取り組みを安定して進めることにつながったと感じています。
5. 【成果・変化】スコア低下は「解像度が上がった」証
── 受講後、社員の皆様の反応や組織としての変化はいかがでしたか?
研修後のアセスメントにより、DXに関する知識やスキルの向上を定量的に確認できました。全体では約30%の社員がランクアップ(TalentQuestランク基準)し、全社平均でみるとすべての評価項目で向上がみられました。
一方で約10%の社員はスコアが下がりました。しかし、我々はこれを「健全でポジティブな変化」だと捉えています。受講者からは「学習を通じてDXの奥深さを知り、自分の現在地を正しく認識できた。」「分かっていなかったことが分かった」といった声も寄せられました。つまり、DXの解像度が上がり、自己評価が適正化されたのです。
もし、スコアを上げることだけが目的のアセスメントであれば、こうはならなかったでしょう。実務での効果創出を見据えた問いを立てていただいているアセスメントだからこそ、自己評価が適正化され、本気の実践意欲も芽生えたのだと思います。こうした変化こそが、本質的な成果だと感じています。
またアンケートでも、創業者 立石一真の経営理念「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動を楽しむべきである」とDXとの親和性に対する再認識・共感の声や、「学んだことを実業務で早速実践している」「研修をきっかけにさらに深い学びを開始した」「最初は何で今更こんなものを受けるのかと思っていたが、受けてとてもよかった」といった声が多く寄せられており、本取り組みを通じた確かな行動変容が起きていると感じています。
6. 【展望】「SF2030」実現に向けた変革の土台づくり
── 今後のDX推進において、本プロジェクトをどのように位置づけていらっしゃいますか?
今回のプロジェクトは、オムロンのDX人財基盤づくりの第一歩と位置づけています。今回の国内全社員の学びを通じて、変革に向けたDXリテラシーを獲得することができたと考えています。
ただし、あくまで目的は「全員が変革に取り組めている状態」であり、そのための土台が出来たに過ぎません。
今後はより実践的なスキルを積み上げていくフェーズに入っていきます。同時に、今回の取り組みを一過性の教育プロジェクトで終わらせるのではなく、人が入れ替わっても変革に向けた土台が維持され続けるために、社内の教育プロセスへの組み込みと定着をしていきたいと考えています。
私たちが目指すDX人財基盤とは、全社員が「共通言語」を持ち、自律的に学び、実践できる組織の状態です。この基盤を原動力として、全社一丸となってSF2030で掲げる社会的課題の解決に向かっていきたいと考えています。
